【書評】『虐殺のスイッチ』 森達也
「なぜ人は優しいままで人を大量に殺せるのか」。そんな筆者の疑問から始まった、集団による虐殺のメカニズムを解き明かす一冊。
筆者はたった一人でつくった「A」というドキュメンタリー映画で、オウム真理教の中で出家信者と暮らし、その模様を取材したことでも知られている、筆者から見たオウム信者は、世間で言われているのとは違い、一人一人は優しく礼儀正しい人々であった。ではなぜ彼らが、残虐なテロ組織となっていったのだろうか。為政者が過ちを犯すとき、オウムが優しいままで人を殺せたわけ、宗教弾圧をすべきでない理由、良識ある人が虐殺に手を染めるまでの8段階、カンボジアがキリングフィールドを観光客に公開している理由、などなど。我々の中にある、虐殺のスイッチ。そのメカニズムを探る一冊。おすすめ
【書評】『ニュースの未来』 石戸諭
「ニュースとは新しい価値を創造するという意味で、クリエイティブなもの」。そう語る筆者による、ニュースの未来について。
これまでニュースを担ってきたテレビ、新聞、雑誌の凋落はいかんともしがたい。さらにインターネットの発展により、ニュースの持つ価値自体も変化している昨今。ニュースに未来はあるのか、筆者がよく問われる問いに、真正面から答えた一冊。ニュースの確からしさを増すもの、ニュースの3つの基本形、バイアスを排除するためにすべきこと、インターネットの時代にニュースに求められること、インターネット時代のニュースの王道、良いニュースの5つの要素、などなど。新聞社やWEBメディアで最前線の記者としてニュースを報じてきた筆者だからこそ描ける、ニュースの未来。ジャーナリストを目指す人も、そうでない人も、現代人必読の一冊。いちおし
【書評】『ジャガイモの世界史』 伊藤章治
「ジャガイモは貧者のパンとして、歴史の転機で大きな役割を果たしてきた」。そう語る筆者による、ジャガイモの歴史。
今や我々の食卓に欠かせない食べ物の一つである、ジャガイモ。その伝播から普及、世界史に果たした役割までの、知られざる歴史を追った一冊。欧州でジャガイモの普及が遅れた理由、フランス料理に名を遺すジャガイモ普及の恩人、ロシアで発生したジャガイモが原因の反乱、長崎とジャガイモの意外な接点、男爵いもの語源、などなど。知っているようでよく知らない、身近な食品の歴史がよく分かる一冊。おすすめ
【書評】『リーダーたちの日清戦争』 佐々木雄一
明治日本にとって、近代国家として初の本格的な対外戦争である日清戦争。政治面から見たその戦争の実態をまとめた一冊。
軍事は政治に隷属する。そのため戦場での勝敗以上に、政治外交での優劣が戦争の勝敗に影響する。にもかかわらず、戦場での武勇伝は広く知られているが、その戦争時の総理大臣が誰であったかまでは、あまり知られていない。おまけに日清戦争は、のちの日露戦争に比べてマイナーな戦争でもある。だが近代国家としては初めての本格的対外戦争であり、また東アジアの盟主である清を相手にした戦争でもあるため、日本近代史では欠かせないターニングポイントとなる出来事である。日清戦争の開戦の政府決定について、伊藤博文が慎重論を唱えたわけ、陸奥宗光が清に対して強気に出た理由、シビリアンコントロールがうまくいったわけ、三国干渉が日露戦争の伏線となった真の理由、などなど。戦争以前の東アジア情勢から、戦後の余波と日露戦争への道まで、日清戦争を広く深く知るための一冊。おすすめ