【書評】『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』 ブレイディみかこ

「社会が本当に変わるということは、地べたが変わるということだ」。英国における最底辺の託児所で働いた経験を基に語られる、寛容さを失っていく社会の記録。
 
筆者は保育士として、英国の底辺託児所やミドルクラス向けの保育園で働いた経験を持つ。折しも福祉が削られ、排外主義が台頭してきた時代。社会の底辺層が利用する託児所は社会の変化の影響をもろに受ける場所であった。外国人の子どもの増加、日本の子どもがおとなしく従順な理由、外国人がナショナリストになる理由、最も低い場所こそが政治の変化が最も顕著に表れる理由、などなど。上っ面の政治論ではなく、お花畑の理想主義でもない。現場のリアルを知る者だけが描ける、変わりゆく社会の現実とは。最も印象に残ったシーンは、地元の英国人を排斥しようとする移民を叱り飛ばすムスリム女性の話。有機物である本物の社会の内側で起こっている、ディープな現実がここにある。おすすめ

【書評】『戦略参謀の仕事』 稲田将人

「参謀役は経営トップへの登竜門」。そう語る筆者による、企業の戦略参謀の目線から語る経営論。
 
日本企業では、たとえばGEのような次期経営者を育てる仕組みはあまり見られない。そんな中で、いくつかの優良企業では社長や事業責任者の機能の一部を代行する「参謀」として腕を磨き、社内からも信望を得ていく方法をとっている。そのような参謀役は何をすべきか、どのような人が参謀に向いているのか。参謀としての仕事の精度を上げる方法、参謀が社長と議論する時間を作るべき理由、困ったときに聞きに行くべき人物とは、なぜ多くの企業で現場作業員としての研修があるのか、企業が低迷状態に陥る理由、社内で無責任体制がはびこる理由、トヨタが安定して高収益を上げられるわけ、経営手法としてのPDCA、などなど。凡百の経営書とは一線を画する、人間心理や組織力学まで踏み込んだ内容は秀逸の一言に尽きる。「参謀とは非公式な役割であり、それゆえに自分自身のイニチアチブが重要」という筆者の言葉通り、現場からの戦略論。おすすめ

【書評】『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質』 折木良一

自衛隊が敗北するときは、わが国が滅ぶとき」。そう語る筆者による、真に負けないための戦略の要諦。
 
筆者は東日本大震災の時の、自衛隊トップである統合幕僚長であった。そんな「戦時」の指揮官だからこそ知り得た、戦略の本質とは。ケネディ大統領があえて会議を欠席していた理由、「相手の立場になって考える」ことの真の意味、帝国陸軍が独善的な作戦しか立てられなかったわけ、災害時に重要な「あるべき姿」とは、自衛隊が戦力回復(休むこと)を重視する根拠、などなど。ビジネス書とは一味違った切り口から、相手に負けない戦略の本質が分かる一冊。おすすめ

【書評】『太陽を創った少年』 トム・クラインズ

9歳でロケットを自作し、14歳で核融合炉を作った早熟の天才、テイラー・ウィルソン。彼の物語を通じて、天才児の才能を開花させる方法を探る一冊。
 
教育専門家の推定によると、学業面でのgifted(才能を授かった) の子どもは6~10%におよぶという。ではなぜテイラーのような子どもは特別なのだろうか。なぜもっと多くの天才は現れてこないのだろうか。両親が子どもの才能を伸ばすためにすべきこと、知識豊富なオタクと行動する天才とを分けるポイント、禁止が子どもに与える影響、加速学習を実現するためにすべきこと、などなど。テイラーと、テイラーになれなかった多くの子どもたちとの比較を通じて、天才を育てる方法を探る一冊。おすすめ

【書評】『パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学』 池谷裕二

脳科学者である筆者が、自分の子育てを通じて、脳の発達を考えた記録。
 
なぜ人は赤ちゃん言葉を使うのか、なぜ大人は辛いものが食べられるのか、なぜ鳥は三歩歩けばものを忘れるのか、なぜ子供は習いもしない文法を習得できるのか、なぜ子どもに様々な経験をさせることが重要なのか、なぜ早生まれのスポーツ選手は少ないのか、などなど。子どもが生まれたことで増した筆者の個人的興味、そこから証明される数々の脳科学理論。脳科学で裏打ちされた子育て論であり、人間の脳についての新たな知見を提示する一冊。おすすめ

【書評】『文学問題(F+f)+』 山本貴光

「「文学とはなにか?」という問いは、何の役に立つか分からない文学なる営みを、なぜ人は五千年も続けてきたのか、という問いである」。そう述べる筆者による、数式を用いた文学論。
 
かつて夏目漱石は、文学は「F+f」であると説いた。あらゆる文学作品は、人間が「認識すること(F)」と「認識に伴って生じる情緒(f)」という二つの要素からできている。筆者はこの考えから、様々な文学的手法、種々の文学作品を読み解く。あたかも物理法則を見つけるように、緻密かつ繊細な論証で、文学の新たな楽しみ方を提案する一冊。おすすめ

【書評】『新・生産性立国論』 デービッド・アトキンソン

「生産性を向上させることによって、日本の労働者は豊かになり、ワーキングプアは消え、貧困に窮している子どもたちが救われ、日本社会全体が幸せになる」。そう語る筆者による、生産性の意味と、生産性向上のための処方箋。
 
人口減少、経済の低迷、上がらない給料と、下がり続ける国際的な存在感。使い古された表現だが、今の日本は危機的状況にある。そのような状況を打破するためには、何をすればいいのだろうか。生産性と効率の違い、高品質・低価格の欺瞞、人口減少下でやってはならないこと、企業数と生産性の関係、労働者の質を活かす方法、かどなど。数字をベースにした議論で、人口減少においても豊かになれる方法を探る一冊。世界第4位の労働者の質を活かすために、もう一度日本経済が世界の注目を集めるために、必読の一冊。おすすめ