【書評】『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』 佐々木健一

これは、知られざる偉業で世界の空の安全を確立した、一人の気象学者の伝記である。
 
かつて、空の旅は危険と隣り合わせであった。毎年のように航空機の墜落事故が起き、18か月に1度の割合で離着陸時に突然起こる「謎の墜落事故」で100名を超す人々が一瞬にして命を失っていた。ところが今では、1日に50万便もの航空機が飛んでいるにもかかわらず、2017年の死亡事故は0件。「謎の墜落事故」の原因である「ダウンバースト」を突き止めたのが、本書の主人公である藤田哲也である。「気象分野にノーベル賞があったら、真っ先に受賞していた」とまで言われる男は、いかにして気象学者となり、いかにして大発見をするに至ったのか。
 
サブタイトルにあるように「世界の空を救った男」であるにもかかわらず、日本での知名度は皆無と言っていい男。だがその波乱に満ちた人生と、栄光に包まれた功績は、もっと知られてもいいと思う。おすすめ

【書評】『第四次産業革命』 クラウス・シュワブ

ダボス会議の創設者が語る、第四次産業革命の衝撃。
 
筆者はダボス会議(世界経済フォーラム)で多くの識者と議論を行い、世界の政治と経済をリードしてきた。そんな筆者が考える「技術革命」の多面的な影響、それに対して取りうる対応とは。巷間語られている内容が多く、真新しい情報は少ない。だが第四次産業革命について、これほど包括的に多方面への影響を語った本はないのではないだろうか。第四次産業革命の入門書として、また立ち返るべき原点として、全体像を知るうえで最適な一冊。おすすめ

【書評】『スポーツ国家アメリカ』 鈴木透

ある意味で米国は、スポーツと社会との連携を再構築することで、近代の限界や矛盾を克服し、理想の国を作ろうとする壮大な実験をしてきた」。そう語る筆者による、スポーツで読み解く、アメリカの成り立ちと現在について。
 
得点を入りにくくする「オフサイド」の起源、近代フットボールと産業社会の共通点、野球やアメフトで審判の数が多い理由、バスケが発明された背景、米国型競技が選手交代が多い理由、ホームランが爽快である心理、野球という競技が米国の国技と言われる理由、などなど。スポーツ大国の成り立ちと、スポーツが米国社会に与えた影響の数々は、スポーツをより面白くしてくれるスパイスであると思う。おすすめ

【書評】『人事の超プロが明かす評価基準』 西尾太

「人事制度とは、個々人の能力を伸ばす「人を成長させる仕組み」」。そう語る筆者による、人事制度・人事評価の要諦とは。
 
人事制度や人事評価は、人事以外の人からは非常に評判が悪い。なぜなら、評価基準が不明確かつ属人的で、何をしたら評価されるのかが分からないからだ。筆者はこれに対し、どんな業界・企業でも通用する、絶対評価基準の45のコンピテンシーを示し、自分のポジションに応じてそのコンピテンシーを身につけることを提唱する。そういった人事評価を運用する側からの視点だけではなく、人事評価制度を作る側からの視点でも、褒めるべきポイントや、使うべき言葉、絶対評価が有効な理由、評価基準の大切さなどを説く。人事の仕事をする人だけでなく、むしろ人事以外の人にも読んでもらいたい一冊。いちおし

【書評】『法人営業 利益の法則』 山口英彦

地味でつまらない商材を扱いながら、仕事のダイナミズムや自分の力量を感じられる法人営業。法人営業の講師を務める筆者による、B2B営業で「儲ける」勘所とは。
 
筆者が提案する「顧客深化の営業モデル」とは、エントリー客をつかむ、顧客との関係を深める、利益を生み出す、再現性ある仕組みで支える、の枠組み。利益を出すためにはカスタマイズは最小限にする、顧客が口にしたニーズを重視しない、購買担当者にあえて畑違いの質問をする、などなど。一見不合理だが、思わず膝を打つようなヒントに満ち溢れた一冊。おすすめ

【書評】『遊牧民から見た世界史』 杉田正明

「「民族」や「国民国家」という枠組みから最も遠いと思われてきた遊牧民を中心テーマに据えて、その興亡・変転のあとを辿ってみたい」。そんな筆者の思いから生まれた、ユーラシアの歴史を遊牧民という視座から見た歴史書。
 
ユーラシアは世界最大の大陸である。だが沿岸地域を除くと、乾燥が共通項となった、同一性のたいへん高い、超広域の生活圏なのである。蛮族、残虐な略奪者、文明の破壊者、などとこれまで散々なイメージで語られてきた遊牧民こそ、その広大な地域の主人公とも言うべき人々なのだ。遊牧民が強大な国家を形成できた理由、その強大な国家が多くの場合あっけなく滅びた理由、遊牧民と農耕民族が共生できる理由、北京が中国の首都である歴史的意義、チンギス・ハンがモンゴル民族に与えた真の価値、モンゴル帝国の世界史的意義、などなど。丹念な研究により、偏見を持って語られることの多かった遊牧民の歴史に、新たな視点をを打ち立てた一冊。いちおし

【書評】『スターバックス成功物語』 ハワード・シュルツ

世界有数のコーヒーチェーンとなった、スターバックス。そのCEOが語る、成功の秘訣とは。
 
偶然口にしたスターバックスのコーヒーにほれ込み、半ば無理やりスターバックスに入社した筆者。最高のコーヒーを届けるという使命を抱き、急速に事業を拡大させていく。市場調査をしない、社内文化を何より大事にする、社員の福利厚生を充実させて競争優位を得る、中途入社であってもいきなり重要なポジションにつける、社員の起業家精神を大事にする、などなど。一見不合理に見えながら、実はスターバックスの成長に欠かせない施策の数々。逆張りに見えるが、裏を返せば競合が目をつけていない施策ばかり。誰にも負けない武器を一つ持ち、壮大なビジョンを掲げ、従業員にそこで働く誇りを植え付ける。言葉にすると陳腐だが、それを誰にも真似できない徹底ぶりで行ったからこそ、今のスタバがあるのだと思う。いちおし