【書評】『国家はなぜ衰退するのか(下)』 ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン

国家はなぜ衰退するのか。下巻は17世紀の植民地主義から産業革命、そして現代まで。
 
なぜこんにちの国家間にはこんなにも不平等が存在しているのか。その起源は19世紀にある。工業化と技術改革を行った国の多くは、現在の先進国になった。ではそれを逃した国に発展の余地はないのか。また現在の先進国は、未来永劫先進国であり続けるのか。歴史と経済とを深く知る者だけが著せる、大統一理論の実践編。「日出ずる国」であり続けるために、必読の一冊。いちおし

【書評】『9プリンシプルズ』 伊藤穣一、ジェフ・ハウ

「これまでの常識が通用しなくなった、新しい時代に通用する理念、哲学、行動原理とはどんなものか?」ベンチャーキャピタリストとして世界の最新テクノロジーに投資し、現在はMITメディアラボの所長を務める筆者による、未来を生きるための9原則。
 
我々の時代を定義づけるのは、非対称性、複雑性、不確実性の3つの条件。我々は、そんな海図のない世界をいかに生きるべきなのか。権威より創発を、プッシュよりプルを、地図よりコンパスを、安全よりリスクを、選ぶべき時代。既存の常識の通用しない時代、世界は根本的な構造改革のただ中にある。さらに人工知能により、我々の存命中にも世界はまた完全に変わるかもしれない。そんな新しい時代に適応できる能力とは、おもしろがる能力なのだ。
 
恐らくこの本を読んだ感想は2種類に分かれると思う。恐れと嫌悪か、歓迎と適応か。間違いなく後者の反応を示す者こそが、これからの時代を創っていく者だと思う。新時代の羅針盤となる一冊。いちおし

【書評】 『日本鉄道事始め』  高橋 団吉

ニッポンに蒸気機関車が走った日、その歴史的意義を明らかにした一冊。
 
1872年9月12日、日本初の蒸気機関車が新橋を出発した。その列車に乗るのは、明治天皇、山尾庸三、大隈重信西郷隆盛板垣退助井上薫勝海舟江藤新平山縣有朋黒田清隆陸奥宗光、などの明治政府のオールスター。明治政府はなぜそこまで鉄道建設に力を入れたのか。知られざる鉄道開通の経緯を紐解く一冊であり、世界鉄道史上に燦然と輝く新幹線や、現在の日本人の行動規範にもつながる鉄道の歴史を解説した一冊。おすすめ

【書評】『国家はなぜ衰退するのか 上』 ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン

国家はなぜ衰退するのか。経済学者である筆者が、この大きすぎる問いに挑む意欲作。
 
盛者必衰の理の通り、いかに栄華を誇った国家もいずれは衰退する。そこにはどのようなメカニズムが働いているのだろうか。上巻はその前段階、国家がいかに繁栄するかについて。
 
国家の成長には2種類ある。1つは収奪的制度の下での成長。既存の技術を基にした成長であり、スターリン時代のソ連など。もう1つは包括的制度の下での成長。技術の変化を必要とする、持続的な成長であり、産業革命期の英国など。現在の米国、メキシコ、ソマリア、さらには共和制ローマ大航海時代コンゴオーストリア帝国海禁政策時の明、漢江の奇跡の韓国、などなど。古今東西の国家の繁栄の歴史を紐解き、そのメカニズムを探る一冊。
 
読みやすい文章、豊富な事例、筆者の幅広い教養などが見事にかみ合い、後世にまで残る大傑作と言っても過言ではない。時に衝撃的な考察によって、時に意外な新事実によって紡がれる、歴史学、経済学の大統一理論。いちおし

【書評】『英雄の書』 黒皮伊保子

脳科学の観点から、「英雄」となるための条件を探る一冊。
 
失敗を恐れるな、勝ち癖をつけろ、夢ではなく「使命」を語れ、誰かのために強くなる、などなど。巷間言われている「成功の条件」それらは脳科学から見れば論理的に説明できるもの。「英雄」となるために、「英雄」であるために、必読の一冊。おすすめ

【書評】『一汁一菜でよいという提案』 土井善晴

「一汁一菜とは、「システム」であり、「思想」であり、「美学」であり、日本人としての「生き方」だと思います」。そう語る、料理研究家である筆者による、シンプルな食のすすめ。
 
日本には「ハレ」と「ケ」を区別して、ケの日常は慎ましく、必要最小限の食事で暮らす風習があった。そんな「ケ」の食卓は、一汁一菜のごくシンプルなもの。シンプルだからこそ、美しさを求め、楽しむこともできる。禅の思想にも似た和食の心得。それは西洋料理とは根本から異なる思想に支えられている。和食で香辛料があまり使われない理由、「すみません」の語源、アクを除くことで失われるもの、刺身だけが「お造り」という字を使う理由、などなど。シンプルだからこそ、美しい、和食のことをもっと知りたくなる一冊。いちおし

【書評】『健康格差 不平等な世界への挑戦』 マイケル・マーモット

世界医師会長を務めた筆者による、健康と格差に関する「不都合な真実」。
 
2012年の世界の平均寿命は70歳だが、シエラレオネの46歳から日本の84歳まで、38年もの開きがある。それはなぜなのか。ロンドンでは、ウェストミンスター駅から東へ1駅行くごとに、平均寿命が1年下がる。なぜそのようなことが起こるのか。国が豊かになるにつれ、高学歴になるほど過体重の割合が少なくなる。何がそれを引き起こしているのか。オーストラリアに始まり、イギリス、インド、マリ、アメリカ、ボリビア、日本、イタリア、バングラディシュなどなど。文字通り世界中を駆け回り、不平等な世界を白日の下にさらした一冊。おすすめ