【書評】『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』 三浦英之

満洲国の将来を担うべく設立された満洲建国大学。その卒業生たちの戦後を描いた一冊。
 
満洲建国大学は、極めて実験的な大学である。満洲国が掲げた五族協和」のスローガンの通り、日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアの5つの民族から選び抜かれた若者たちが学ぶ、約6年間全寮制の学校である。そこで彼らは授業はもちろん、食事も、睡眠も、運動も、生活の全てを異民族と過ごす。就寝時の並びにおいても、異民族が隣同士になるようにまで配慮されていたという。互いの内面さえも正しく理解する必要があるとの認識から、驚くべきことに開学当初から言論の自由が認められていた。つまり、たとえ中国人や朝鮮人であっても、日本政府を公然と批判することができたのである。また講師も国際色豊かで、三・一独立運動の独立宣言書を起草した崔南善もまた、教鞭をとっていた。当然とも言うべきか、学生の中には抗日運動や独立運動に身を投じる者もおり、在学中に逮捕される者もいたという。
 
日本が真の意味での国際化を目指し、異民族との共存を始めた満洲国。その中にあって満洲建国大学は、実験国家の中の実験場とも言うべき大学であったのだと思う。狭き門を潜り抜けた知性、授業の1/3を占めるカリキュラムで鍛えられた語学力、そして異民族と本気でぶつかって身に付けた国際性。それらを兼ね備えた満洲建国大学は、今の時代にこそ顧みられるべき存在だと思う。いちおし