【書評】 『フンボルトの冒険』 アンドレア・ウルフ

フンボルトと数日ともに過ごすのは、数年生きるのと変わらない」そうゲーテに評された男、アレクサンダー・フォン・フンボルト。今日の我々の自然観を創った人物の伝記。
 
フンボルトがいなければ、大陸移動説も、進化論も、『沈黙の春』も、生態系理論も、生まれてこなかった。1769年というナポレオン・ボナパルトと同じ年に生まれ、ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテを生涯の友とし、トーマス・ジェファーソンに感嘆され、シモン・ボリバルと交わり、チャールズ・ダーウィンに影響を与えた男。科学者でありながら、書斎で思索や書物と交わるだけの人物ではない。南米のアマゾン奥地に、ウラル山脈からアルタイ山脈までのロシアに、調査のための大冒険を行う。科学界の巨人が得たのは「地球は一つの生命である」という、「生命の綱」理論だった。
 
あまりにスケールの大きすぎる人物であり、現在の尺度ではとうてい測りきれない人物である。科学が専門領域に細分化される前の最後の博識家であり、彼の唱えた理論がいまや「常識」になっているからこそ、多くの人から忘れ去られている人物でもある。19世紀前半という疾風怒濤の時代、縦横無尽に世界を駆け回った人物の生涯は、驚きと大興奮に満ちている。おすすめ