【書評】『ヒルビリー・エレジー』 J・D・ヴァンス

「人々は、富める者と貧しき者、教育を受けた者と受けていない者、上流階層と労働者階層というように、大きく二つのグループに分けられ、ますます違う世界を生きるようになっている」。そう語る筆者による、ラスト・ベルトの真実。
 
筆者はラスト・ベルト(さびついた工業地帯)で生まれ、育った。そこから筆者は多くの幸運と努力により、イエール大学ロースクールを卒業し、現在は投資会社の社長を務める、アメリカンドリームの体現者である。だがこの本は、そんな華やかなイメージとは裏腹に、淡々と語るようにつづられている。筆者自身がラスト・ベルトで経験したこと、そこからいかに抜け出したかを中心に語られている。薬物のせいで亡くなる人々、繰り返される離婚と再婚、喧嘩っ早い親戚、軍隊への志願、仕事も希望も失われた地方都市。筆者が「金を使って貧困へと向かっていく」と述べるように、完全に合理性を欠いた世界である。それとは対照的な、アイビーリーグでの生活。ほかの学生から兵士への悪意に満ちたイメージを聞かされるエピソードや、テーブルマナーが全く分からずに困惑するエピソードは、「ヒルビリー」と「WASP」の間の大きな断絶を物語っていると思う。全米中の、世界中の良識が驚いたトランプ大統領の誕生は、この断絶がもたらしたといっても過言ではない。アメリカの繁栄から取り残された、疲弊するラスト・ベルト。筆者はどうやってそこから抜け出せたのか、おそらく日本の貧困解決へのヒントも見いだせる一冊。いちおし