【書評】『ディープ・シンキング 人工知能の思考を読む』 ガルリ・カスパロフ

「機械にあるのは指示だが、私たちには目標がある。壮大な夢をかなえるためにこそ、知能機械が必要なのだ」。史上最強と謳われたチェスプレイヤーであり、かつて「ディープ・ブルー」との対戦で世界的な注目を集めた筆者による、人工知能論。
 
かつて機械は、肉体労働を代用してくれるものであった。今では機械は、人間では到底落ち上げられないような重いものを、驚くべき速さで、しかも正確に運ぶことができる。さらに最近では、知能機械が単純な認知機能を任せられるまでになった。これにより、人間は人間たるゆえんである精神活動にもっと集中できるようになった。人間はもはや、肉体労働をすることも、チェスを指すことすらも、する必要がなくなっているのである。
 
筆者は人工知能の萌芽期から、それが人間と対決し、人間を凌駕し、そして人間と協力する時代までを間近で見てきた。人工知能は人間と違って疲れないし、集中力を乱されないし、調子の波もないし、進歩の速度が想像を超えている。そんな人工知能と対戦することへの意欲と戸惑い、そして人工知能の本質を見抜くまで。筆者の感じたことがそのまま、人工知能の開発史と言っても過言ではない一冊。また超一流の知性だけが持つ、世界の捉え方にもしびれさせられる一冊。いちおし