【書評】 『キュリー夫人』 エーヴ・キュリー

世界で最も有名な科学者、マリー・キュリー。その実の娘による伝記。
 
マーニャ・スクウォドフスキ、後のキュリー夫人は他国の支配を受け、後に消滅するポーランドという国に生まれた。パリで学び、後に夫となるピエール・キュリーと出会った。彼との共同研究で、神秘の物質ラジウムを発見し、新たな科学と哲学、そして多くの人々を救う医学を生み出した。史上初の女性のノーベル賞受賞者であり、史上初めて2回もノーベル賞を受賞した人物であった。第一次世界大戦では陣頭に立ち、恐らくは数万もの人々を救った。晩年は世界中から集まってくる弟子たちに、自分の持てる知識と経験を惜しむことなく伝授した。偉大な業績と、大いなる栄誉を得ながら、終生にわたり清貧であり、たゆまぬ努力を惜しまず、知性にあふれ、そして献身的であった。家庭にあっては最愛の夫を早くに亡くしながら、長女イレーヌを後にノーベル賞を受賞するほどの科学者に、次女エーヴを国際的なピアニストに育て上げた。
 
無理にキュリー夫人を大きく見せることも、わざとらしくドラマチックに描くことも、涙を誘う演出も、この本には存在しない。だがその淡々とした筆致が、むしろキュリー夫人の静かな強さを際立たせている。人類が記憶に留めるべき、人類の記録に残すべき、真に偉大な人物の生涯を記した一冊。おすすめ