1959年から1984年にかけて実施された「帰国事業」により、9万人以上もの在日朝鮮人とその縁者となる日本人が、北朝鮮に渡った。在日朝鮮人の祖国願望に応えたヒューマニズムの物語は、冷戦下のパワーポリティクスの結果でもあった。危険分子とみなされていた在日朝鮮人を追放したい日本、労働力不足解消と「地上の楽園」ぶりを世界に見せつけんとする北朝鮮、北朝鮮のさらなる強大化を警戒する韓国、人道主義の旗印のもとに名を上げたい日本赤十字社、さらには東アジアに影響力を持つ米ソ中。これらのプレーヤーの思惑が複雑に絡み合いながら、東アジア史上最大と言っても過言ではない民族大移動が実現した。