【書評】『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』 山口 周

「21世紀はすでに「大きな問題」は解決されてしまっているので、問題解決能力が富を創出することはない」。そう語る筆者により、新しい時代を生きるための思考・行動様式について。
 
20世紀にもてはやされた、問題解決能力、KPI管理、ルール厳守、綿密な計画、などなど。これらは21世紀においては、時代の要請と合致しておらず、むしろ問題を増幅させかねない。オープンイノベーションがうまくいかない理由、未来予測が役に立たない理由、ガラケーがどれも似たようなものになっていった原因、ベンツが高くても売れるわけ、コンビニにたばこの銘柄が数多くあるわけ、アムンゼンがスコットに勝てた理由、ハリウッド型のリーダーシップが必要とされるわけ、などなど。21世紀に活躍できるニュータイプになるための、思考や行動のアップデート方法。述べられていること一つ一つは、当たり前になりつつある。それらを体系的にまとめた一冊として、一読の価値あり。おすすめ

【書評】『とんかつの誕生』 岡田哲

「日本人が海外でホームシックになった時、とんかつ、カレーライス、コロッケの三大洋食が食べたくなるという」。そう語る筆者による、明治維新以降の日本の洋食の発展史。
 
1872年、明治政府は天武天皇以来1200年にも及ぶ肉食禁止を解き、西洋との体格差を埋めるべく肉食を奨励し始めた。当初はこれに反対するテロリストが皇居に乱入するなど、様々な軋轢を経て、洋食は日本の新たな食文化として発展していく。明治初期に牛鍋やすき焼きが誕生した必然、肉食の普及に貢献したある制度、西洋料理と洋食との違い、パンが幕末に普及した理由、とんかつの誕生に至る長い道のり、初期のとんかつの正しい食べ方、などなど。牛鍋、アンパン、コロッケ、カレーライスといった洋食が生まれた背景。そしてその土壌のもとに洋食の王者、とんかつが誕生するまでの物語。我々が普段口にしている食事が、今の形になるまでの必然と偶然を追った一冊。読めばきっと、とんかつを食べたくなる。おすすめ

【書評】『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』 アダム・オルター

現代人は、1日平均3時間もスマホを使用している。我々を中毒にする依存症ビジネスの実態に迫った一冊。
 
スティーブ・ジョブズは、言わずと知れたアップルの経営者である。だが彼は自分の子どもには、決してiPad をはじめとするデジタルデバイスを与えようとはしなかった。まるで薬物の売人が、決して薬物を使用しないように。彼だけではなく、IT業界の大物たちの多くは、似たようなルールを取り入れている。SNS、ゲーム、ギャンブル、ネットフリックス、果ては運動まで、様々な依存症に共通することとは。現代人が金魚にも劣る理由、集中力のない親の弊害、パーキンソン病患者が依存症になりやすい理由、当たらないスクラッチくじを毎回買う理由、ゲームにおける仕組まれたビギナーズラック、などなど。我々を虜にし、破滅に追いやる依存症ビジネスの実態。依存症の恐怖だけでなく、それに対する対抗策も興味深い。おすすめ

【書評】『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』 頭木 弘樹

「落語はいろんな人によって話が作り替えられ(突然変異)、つまらないものは廃れていき(淘汰)、面白い話だけが残っていく」。そう語る筆者による、落語の入門書。

落語の入門書と聞けば、普通は「落語のここが面白い!」という話から始まる。だが本書では、「落語は面白くなくて当たり前」というところから始まる。なぜ面白くもない「落ち」で話が突然終わるのか、なぜ落語の登場人物は江戸時代ばかりなのか、なぜ落語は一人で行うのか、なぜ落語は文章で読んでもつまらないのか、なぜ落語には著作権がないのか、などなど。落語をつまらなくしていると感じられていた要素が、実は落語の肝であったことがよくわかる。普段本で読んでいる「目の物語」と比較した、口承文学としての「耳の物語」の代表である落語。読めばきっと、落語を聴きたくなる一冊。おすすめ
 

【書評】『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか: 生き物の「動き」と「形」の40億年』 マット ウィルキンソン

「進化の途中で適応性が低下すると、最終的に有益な結果をもたらす変化であっても、途中で進化が止まってしまう」。そう語る筆者による、生命の進化の歴史。
 
現在の生物は、どのようにして現在の形にたどり着いたのだろうか?二足歩行のヒト、空を飛ぶ鳥、シーラカンスのひれ、移動しない植物、ハイハイする幼児、などなど。多種多様な進化の果てに、たどり着いた形状の必然性とは。40億年の進化の物語を貫く、法則性や因果関係を解き明かした一冊。おすすめ

【書評】『「ものづくり」の科学史』 橋本毅彦

「互換性」と「標準化」。意識するしないに関わらず、我々が日々多大なる恩恵を受けている、「ものづくり」の基礎技術の発展史。

かつて、ほとんどのものは一点一葉で製造されていた。そのため、ある一つの部品が壊れれば、その部品を一から作り直さねばならなかった。ところが現在では、ねじや歯車のような要素部品から、USBメモリや飛行機のジェットエンジンまで、様々なものが規格化され、容易に交換することができる。「互換性」と「標準化」はいつ、どのように始まったのか。フリードリッヒ大王から、米国の軍事技術思想、コンテナ革命、ISOまで、その歴史をたどる一冊。現代社会を支える、最強の裏方の物語。おすすめ

【書評】『遅刻の誕生』 橋本毅彦

日本人の時間感覚はどこから来たのかを、様々な切り口から探った一冊。
 
明治初期に来日したお雇い外国人たちは、日本人はほとほと時間にルーズであり、これでは近代化など望むべくもないと嘆くのが常であった。ところが現在では、日本の電車は世界一時間に正確であることで知られている。15秒単位のダイヤで走る電車だけではなく、工場においては資材と時間が極限的に節約され、正しい時刻を永遠に指し続ける電波時計は日本のお家芸といっても過言ではない。明治以来の100年余りで、日本人はどのようにして時間規律を身に付けてきたのか。鉄道ダイヤ、労働管理、教育、家庭領域、暦、農村、などの切り口で、日本人の時間感覚の移り変わりを探る一冊。「遅刻」という新しい概念の誕生を通じて、当たり前だったものが別の当たり前に取って代わられるまでの社会の変化を、克明に記した一冊。おすすめ