【書評】『生物の中の悪魔』 ポール・デイヴィス

「生物は、今日までに確立されている『物理法則』には背いてはいないものの、今のところ未知である『別の物理法則』は必要としている」。量子力学創始者として知られるシュレーディンガーの言葉である。同じく物理学者である筆者が語る、「情報」という概念をベースにした生物論。
 
ヒトゲノム計画により、我々は生命の「パーツリスト」は得られた。だが「組立指示書」がないため、我々はいまだに生命を生み出すことができずにいる。どんなに単純な生命であれ、人類の叡智を結集してもそれを再現できずにいる。生命を形作る「何か」、それをテーマにした一冊。平衡状態と生命について、情報とエントロピーとの違い、電子回路と生物の共通点、単細胞生物と多細胞生物の本質的違い、などなど。物理学をはじめとする様々な学問の知見を総動員して見えてくる、生物の秘密。難解ではあるが、それゆえに何度でも読み返したくなる一冊。いちおし