【書評】『テムズとともに -英国の二年間-』 徳仁親王

「再びオックスフォードを訪れる時は、今のように自由な一学生としてこの町を見て回ることはできないであろう。おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうかなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたらなどと考えてしまう」。今上天皇陛下が、若き日に留学したオックスフォードの思い出をまとめた一冊。
 
オックスフォードに留学が決まった経緯、英国議会の見学で感銘を受けたこと、ご学友から「デンカ」ではなく「デンキ」と呼ばれたエピソード、「タウンとガウン」の町オックスフォードの印象、服装についてのポリシーと失敗談、研究生活について、などなど。大きな事件が起こるわけでもない、ありふれた日常。だが瑞々しい感性と、今しかないという焦燥感が通奏低音となって、きらきらと輝いた日常。オックスフォードの紀行文としても、陛下の研究テーマである水上交通史の解説書としても、唯一無二の存在感を放つ一冊。おすすめ