【書評】『東條英機ー「独裁者」を演じた男』 一ノ瀬俊也

「「人情宰相」の演技ができた東條以外に、日本の総力戦指導者はありえなかった」。そう語る筆者による、総力戦指導者としての東條英機の実像。
 
「生きて虜囚の辱めを受けるなかれ」「敵機は気合で墜とす」など精神論ばかりがクローズアップされ、また太平洋戦争開戦時の首相であることから敗軍の将としての批判も多い東條英機。彼の父の略歴から、生い立ち、軍内での派閥抗争と出世、航空戦、組閣と開戦、そして敗戦と東京裁判まで。そこにあるのは絶対的権力を持つ独裁者の姿ではなく、最後まで国民、陸軍、海軍、政府を掌握しきれずに、総力戦を戦わざるを得なかった指導者の姿である。「独裁者」を演じた男、というサブタイトルの通りの、彼の素顔に迫った一冊。おすすめ