「タイガースはどうしてこうも人を狂わせる」。そう語る筆者による、大阪タイガース第8代監督、岸一郎の伝記。
岸一郎、その名を知っている阪神ファン、野球ファンがどれくらいいるだろう。それもそのはず、彼が監督を務めたのはわずか33試合で、シーズン途中に「痔の悪化」により休養。プロ経験がないまま監督になり、選手から総スカンを食らって球界を追われた。彼の後を継いでプレイングマネージャーとなった、ミスタータイガースの藤村冨美男の眩しすぎる光に隠れ、歴史の闇に消えた人物である。だが筆者は彼の姿に、毎年のように繰り返される阪神タイガースのお家騒動の起源を見る。阪神タイガースの歴代監督は延べ35人とプロ野球で最多であり、巨人は19人、南海から続くホークスは17人と半分以下である。そのせいなのか、タイガースが日本一になったのは、90年の歴史でわずかに2回である。
ほぼ無名の人物であり、また彼を直接知る人も多くが鬼籍に入っている人物である。そんな中でも、一編の伝記を書き上げた筆者の取材力は見事の一言である。またなぜタイガースは内紛続きなのか、なぜ監督の座を誰もが嫌がるのか、なぜそれでも監督を引き受ける人がいるのか。そんな問いの答えまで導き出す筆者もまた、タイガースに狂わされた一人なのかもしれない。おすすめ