【書評】『「具体抽象」トレーニング』 細谷功

「知識の獲得だけでなく、抽象度を上げることで、知的能力が発展する」。そう語る筆者による、抽象かと具体化によって発想を豊かにする方法。
 
試験問題には正解があるが、現実の問題には正解はない。誰かが出した答えを学ぶのではなく、自分の頭で考える、すなわち具体化と抽象化を行うためにはどうすればいいか。問題を根本から解決するために考えること、抽象化によって話が分かりやすくなるとは、抽象化と孤独の関係、例えと喩えの違い、大統一理論が知の到達点である理由、などなど。知的レベルを一段上げるためのヒントに満ちた一冊。おすすめ

【書評】『虎の血』 村瀬 秀信

「タイガースはどうしてこうも人を狂わせる」。そう語る筆者による、大阪タイガース第8代監督、岸一郎の伝記。
 
岸一郎、その名を知っている阪神ファン、野球ファンがどれくらいいるだろう。それもそのはず、彼が監督を務めたのはわずか33試合で、シーズン途中に「痔の悪化」により休養。プロ経験がないまま監督になり、選手から総スカンを食らって球界を追われた。彼の後を継いでプレイングマネージャーとなった、ミスタータイガースの藤村冨美男の眩しすぎる光に隠れ、歴史の闇に消えた人物である。だが筆者は彼の姿に、毎年のように繰り返される阪神タイガースのお家騒動の起源を見る。阪神タイガースの歴代監督は延べ35人とプロ野球で最多であり、巨人は19人、南海から続くホークスは17人と半分以下である。そのせいなのか、タイガースが日本一になったのは、90年の歴史でわずかに2回である。
 
ほぼ無名の人物であり、また彼を直接知る人も多くが鬼籍に入っている人物である。そんな中でも、一編の伝記を書き上げた筆者の取材力は見事の一言である。またなぜタイガースは内紛続きなのか、なぜ監督の座を誰もが嫌がるのか、なぜそれでも監督を引き受ける人がいるのか。そんな問いの答えまで導き出す筆者もまた、タイガースに狂わされた一人なのかもしれない。おすすめ

【書評】『超・箇条書き』  杉野 幹人

「箇条書きを観れば、その人の思考、そして伝える力のレベルがわかる」。そう語る筆者による、凡庸にして最強のスキル、箇条書きの入門書。
 
現在は情報過多の時代である。それゆえ、いかに短く、魅力的に伝えるかの価値が高まっている。それに最適なのが、箇条書きだ。だがシンプルであるがゆえに、この最強スキルは教えられることも、工夫されることも少ない。筆者が多くの優秀な人たちから学んだ、箇条書きのエッセンスをまとめた一冊。ダメな箇条書きの例、忙しい相手にも分かりやすくするコツ、相手を主人公と思わせる技、数字を入れるメリット、などなど。シンプルに伝え、すぐさま行動してもらうコツが詰まった一冊。おすすめ

【書評】『水の未来』 フレッド・ピアス

「水は究極の再生可能資源である」。そう語る筆者による、水とその利用をめぐる物語。
 
人間が口にする水は5L/日、風呂なども含めると150L/日程度であるという。ただし、風呂好きの日本人は314L/日を使うという。だが目に見えないところで、我々は多くの水を使っている。たとえば米1kgを作るのに必要な水は2000L、砂糖1kgを作るのに必要な水は3000Lである。これらを足し合わせると、我々は飲む量の1500~2000倍もの水を必要としている。だが近年、多くの川や湖が干上がっているという。そんな危機的状況にある、水の未来を描いた一冊。インダス川流域で農業が難しい理由、気温上昇により失われる水、ダムの功罪、水の輸入が難しい理由、世界最大の環境破壊といわれるアラル海の今、などなど。地理的、時間的に幅広く、水をめぐる我々の物語を描き切った大作。おすすめ

【書評】『海軍経営者山本権兵衛』 千早正隆

「権兵衛の前に権兵衛なく、権兵衛の後に権兵衛なし」。そう筆者が激賞する、近代日本海軍の父、山本権兵衛の伝記。
 
明治日本のクライマックスと言っても過言ではない、日本海海戦。世界の一流国ロシアを打ち負かしたのは、そのわずか38年前までは前近代の封建社会の日本であった。そしてその海軍を作り上げたのは、40歳の若さで海軍大臣官房主事、後に海軍大臣として長きにわたり、組織を作り、人を育て抜擢し、造船産業を育成し、そして魂を吹き込んだ山本権兵衛であった。彼が信念の人であったエピソード、家庭での意外な素顔、私淑する西郷隆盛とのこと、日露戦争に活きた海軍拡張計画の中身、人事が上手かった理由、などなど。海軍という戦闘組織にあって、戦功とも勇猛さとも異なる部分で、唯一無二となった男の伝記。おすすめ

【書評】『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』 樋口耕太郎

「沖縄は長年、自分たちが被害者という前提で問題を解決しようとしてきた。そのことが沖縄の問題解決を遠ざけてきた」。そう語る筆者による、沖縄と、日本と、私たち自身の根本原因を探る一冊。
 
沖縄で生産される酒類には、酒税減免措置がある。沖縄の雄、オリオンビールは総額700億円の酒税軽減を受けているが、同期間の利益合計は520億円しかない。つまり酒税軽減がなければ赤字企業なのだ。地域独占に近い企業であるはずなのに、これはなぜなのか。沖縄人がクラクションを鳴らさないわけ、沖縄企業が県内で強いのに県外だとからきしな理由、沖縄で選挙後に露骨な論功人事が行われるわけ、沖縄でイノベーションが起こらない理由、沖縄を嫌う沖縄人が増えた原因、などなど。沖縄の問題、ひいては日本全体の抱える問題を白日の下にさらす一冊。おすすめ

【書評】『戦国時代の足利将軍』 山田康弘

「戦国時代の将軍というのは本当に無力であったのか」。そんな筆者の疑問から始まる、室町将軍の物語。
 
応仁の乱以降、室町幕府の将軍は都落ちするわ、反乱起こされるわ、配下の大名は言うこと聞かんわ、幕府とは名ばかりの傀儡であった。というのは、一昔前までの室町将軍のイメージ。だがそんな状態でも、100年にわたり室町幕府が存続しえたのはなぜか。室町幕府が強大な直轄軍を持たなかった理由、応仁の乱で崩れた幕府のヒエラルキー、室町将軍の与える栄典の価格が急騰したわけ、将軍の権威を利用した戦国大名たち、などなど。室町幕府を語るうえでは外せない、古典的名著。おすすめ