【書評】『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』 ジョセフ・ヘンリック

「ヒトという種は、習慣、技術、経験則、道具、動機、価値観、信念など成長過程で他者から学ぶ「文化」への依存度を高めながら進化してきた」。そう語る筆者による、人類と他の生物を分けた、進化の軌跡について。
 
ヒトは肉体的な力が弱く、俊敏さにも欠ける。持久力は高いが、ヒトより持久力の高い生物は存在する。しかも有毒な植物を無毒化する機能が貧弱なため、加熱調理しなければ食べられない食物も多い。知能は優れているかもしれないが、例えば道具を何も持たせずに熱帯雨林や寒冷地にヒトを送り込めば、他の生物よりもはるかに高い確率で全滅する。では何がヒトをこの世界の覇者にしたのだろうか。ヒトの「賢さ」の種類、探検隊と土着民の違い、持久力の高さを活かせないヒトの決定的弱点とその克服法、香辛料が多くの料理に使われる理由、社会集団の規模が重要なわけ、他者から学ぶために必要なこと、などなど。人類が「文化」をテコに、いかに進化していったか、いかに繁栄の道を歩んでいったかがよくわかる一冊。おすすめ

【書評】『「豊かさ」の誕生』 ウィリアム・バーンスタイン

「世界がいつ、どこで、どのように繁栄を始めたかを知ることによって、私たちは世界がどこへ向かっているのかを、より正しく予測することができるかもしれない」。そう語る筆者による、英雄の出てこない世界史。
 
諸行無常とはよく言ったもの。これまで数々の国家が栄華を極め、そして見る影もなく没落していった。そのような繁栄や豊かさにはどのような法則があるのだろうか。投資家として活躍する筆者が語る、成長と発展の文明史。専制国家が必ず没落する理由、共産主義が失敗したわけ、「グローバル化」をもたらした発明、工業化のために農業が果たした役割、技術革新を促すために必要なこと、日本の高度経済成長が二度と来ない理由、これからも人類が繁栄し続けられるわけ、などなど。1820年ごろに起こった第一次産業革命により、発展の道を歩み始めた人類の、壮大な歴史。特に繁栄を約束する四要素は必読である。おすすめ

【書評】『社会を知るためには』 筒井淳也

「社会は思い通りに動かせるものではない」という事を実感しないと、社会をちゃんと動かすことはできない」。そう語る筆者による、社会の入門書。
 
筆者は社会学者として、社会の様々なことを研究している。社会学は他の学問とは違い、「まだ知らないこと」は対象の側にあり、対象の方が専門家よりそのことに詳しいという側面を持っている。そんな日々の研究から生まれた、理屈ではない、現実の社会の様々なこと。深刻な問題が生じるのは誰のせいか、専門家が進むことの陥穽、社会変革が思ったような効果を挙げない理由、社会がわかりにくいわけ、社会に働く慣性の法則、理屈で考えることの緩さ、などなど。分らないからこそ、そこを出発点とする、「無知の知」のような社会学の考え方とは。複雑な世の中を読み解くヒントが詰まった一冊。おすすめ

【書評】『コンサルを超える 問題解決と価値創造の全技法』 名和高司

「問題解決は総合芸術である」。そう語る筆者による、ビジネスフレームワークの活用法。
 
単純な問題解決能力だけでは、いずれAIに駆逐されてしまう。人間にしかできない価値は何か。コンサルとして、大学教授として、活躍する筆者が見つけた答えとは。WhyとHowの間に問うべきこと、組織にダイバーシティが必要な理由、即効性があり効果も大きい施策が実行されないわけ、3C分析を将来予測に使うやり方、負け犬事業の活かし方、フレームワークの弊害、マトリックスでの軸の取り方のコツ、などなど。中級者以上に向けた、問題解決の技法の数々。フレームワークの使い方が変わる一冊。おすすめ

【書評】『テムズとともに -英国の二年間-』 徳仁親王

「再びオックスフォードを訪れる時は、今のように自由な一学生としてこの町を見て回ることはできないであろう。おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうかなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたらなどと考えてしまう」。今上天皇陛下が、若き日に留学したオックスフォードの思い出をまとめた一冊。
 
オックスフォードに留学が決まった経緯、英国議会の見学で感銘を受けたこと、ご学友から「デンカ」ではなく「デンキ」と呼ばれたエピソード、「タウンとガウン」の町オックスフォードの印象、服装についてのポリシーと失敗談、研究生活について、などなど。大きな事件が起こるわけでもない、ありふれた日常。だが瑞々しい感性と、今しかないという焦燥感が通奏低音となって、きらきらと輝いた日常。オックスフォードの紀行文としても、陛下の研究テーマである水上交通史の解説書としても、唯一無二の存在感を放つ一冊。おすすめ

【書評】『Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 アーリック・ボーザー

何かを学ぶために、最適な方法は何だろうか。政策面から学びについての研究と提言を行う筆者による、学びの指南書。
 
人は学ぶ生き物である。何かを学ぶことで、そしてその学びを共有することで、人は文明を発展させてきた。学習過程をより効率化させるための、6つの段階を解説した一冊。結果よりプロセスが重要な理由、学習に意味を持たせるやり方、短期記憶の特性、語呂合わせが効果が高い理由、反復練習の意味、人に教えることで学びが深まる理由、複数の学びを同時並行させる効果、内省が必要な理由、などなど。学習を行ううえで、知っておきたい研究結果の数々。学習者にとって、教師にとって、バイブルとも言うべき、教育研究の決定版。いちおし

【書評】『生物の中の悪魔』 ポール・デイヴィス

「生物は、今日までに確立されている『物理法則』には背いてはいないものの、今のところ未知である『別の物理法則』は必要としている」。量子力学創始者として知られるシュレーディンガーの言葉である。同じく物理学者である筆者が語る、「情報」という概念をベースにした生物論。
 
ヒトゲノム計画により、我々は生命の「パーツリスト」は得られた。だが「組立指示書」がないため、我々はいまだに生命を生み出すことができずにいる。どんなに単純な生命であれ、人類の叡智を結集してもそれを再現できずにいる。生命を形作る「何か」、それをテーマにした一冊。平衡状態と生命について、情報とエントロピーとの違い、電子回路と生物の共通点、単細胞生物と多細胞生物の本質的違い、などなど。物理学をはじめとする様々な学問の知見を総動員して見えてくる、生物の秘密。難解ではあるが、それゆえに何度でも読み返したくなる一冊。いちおし