【書評】『ワイズカンパニー』 野中郁次郎

「真の知恵は行動によって示される」。そう語る筆者による、実践知のすすめ。
 
この著作のはるかな前、筆者はSECIモデルを生み出した。それから四半世紀前、激変した世界と、SECIモデルの豊富な実践例を盛り込んだ一冊。知の実践のために必要なフロネシスという考え、知識のスパイラルな上昇にために必要なこと、本質を伝える能力を磨く方法、よりよい未来を実現するためにすべきこと、真の知恵とは、などなど。450ページを超える大著でありながら、ページを繰る手が止まらなくなる一冊。おすすめ

【書評】『第11軍通信隊』 久保田正治

通信部隊として、中国戦線で活躍した筆者の手記。
 
筆者は浜松高等工業学校(現・静岡大学工学部)を卒業後、電信第一連隊に入隊した。そこから3年に及ぶ大陸での活動を綴った一冊である。通信部隊とは、軍隊の部隊間の連絡設備の設営を行う。要は電信柱を立て、電線を引く仕事である。若き日の筆者が見た、戦争の姿とは。通信部隊と前線部隊の違い、若い教官の気苦労、戦場で敵よりもやっかいなもの、日本軍にスパイを送り込む簡単な方法、などなど。弾が飛び交う前線とは違い、後方勤務特有の大らかな雰囲気で語る戦争譚。地べたの兵士から見た戦争の姿が興味深い一冊。おすすめ

【書評】『「具体抽象」トレーニング』 細谷功

「知識の獲得だけでなく、抽象度を上げることで、知的能力が発展する」。そう語る筆者による、抽象かと具体化によって発想を豊かにする方法。
 
試験問題には正解があるが、現実の問題には正解はない。誰かが出した答えを学ぶのではなく、自分の頭で考える、すなわち具体化と抽象化を行うためにはどうすればいいか。問題を根本から解決するために考えること、抽象化によって話が分かりやすくなるとは、抽象化と孤独の関係、例えと喩えの違い、大統一理論が知の到達点である理由、などなど。知的レベルを一段上げるためのヒントに満ちた一冊。おすすめ

【書評】『虎の血』 村瀬 秀信

「タイガースはどうしてこうも人を狂わせる」。そう語る筆者による、大阪タイガース第8代監督、岸一郎の伝記。
 
岸一郎、その名を知っている阪神ファン、野球ファンがどれくらいいるだろう。それもそのはず、彼が監督を務めたのはわずか33試合で、シーズン途中に「痔の悪化」により休養。プロ経験がないまま監督になり、選手から総スカンを食らって球界を追われた。彼の後を継いでプレイングマネージャーとなった、ミスタータイガースの藤村冨美男の眩しすぎる光に隠れ、歴史の闇に消えた人物である。だが筆者は彼の姿に、毎年のように繰り返される阪神タイガースのお家騒動の起源を見る。阪神タイガースの歴代監督は延べ35人とプロ野球で最多であり、巨人は19人、南海から続くホークスは17人と半分以下である。そのせいなのか、タイガースが日本一になったのは、90年の歴史でわずかに2回である。
 
ほぼ無名の人物であり、また彼を直接知る人も多くが鬼籍に入っている人物である。そんな中でも、一編の伝記を書き上げた筆者の取材力は見事の一言である。またなぜタイガースは内紛続きなのか、なぜ監督の座を誰もが嫌がるのか、なぜそれでも監督を引き受ける人がいるのか。そんな問いの答えまで導き出す筆者もまた、タイガースに狂わされた一人なのかもしれない。おすすめ

【書評】『超・箇条書き』  杉野 幹人

「箇条書きを観れば、その人の思考、そして伝える力のレベルがわかる」。そう語る筆者による、凡庸にして最強のスキル、箇条書きの入門書。
 
現在は情報過多の時代である。それゆえ、いかに短く、魅力的に伝えるかの価値が高まっている。それに最適なのが、箇条書きだ。だがシンプルであるがゆえに、この最強スキルは教えられることも、工夫されることも少ない。筆者が多くの優秀な人たちから学んだ、箇条書きのエッセンスをまとめた一冊。ダメな箇条書きの例、忙しい相手にも分かりやすくするコツ、相手を主人公と思わせる技、数字を入れるメリット、などなど。シンプルに伝え、すぐさま行動してもらうコツが詰まった一冊。おすすめ

【書評】『水の未来』 フレッド・ピアス

「水は究極の再生可能資源である」。そう語る筆者による、水とその利用をめぐる物語。
 
人間が口にする水は5L/日、風呂なども含めると150L/日程度であるという。ただし、風呂好きの日本人は314L/日を使うという。だが目に見えないところで、我々は多くの水を使っている。たとえば米1kgを作るのに必要な水は2000L、砂糖1kgを作るのに必要な水は3000Lである。これらを足し合わせると、我々は飲む量の1500~2000倍もの水を必要としている。だが近年、多くの川や湖が干上がっているという。そんな危機的状況にある、水の未来を描いた一冊。インダス川流域で農業が難しい理由、気温上昇により失われる水、ダムの功罪、水の輸入が難しい理由、世界最大の環境破壊といわれるアラル海の今、などなど。地理的、時間的に幅広く、水をめぐる我々の物語を描き切った大作。おすすめ

【書評】『海軍経営者山本権兵衛』 千早正隆

「権兵衛の前に権兵衛なく、権兵衛の後に権兵衛なし」。そう筆者が激賞する、近代日本海軍の父、山本権兵衛の伝記。
 
明治日本のクライマックスと言っても過言ではない、日本海海戦。世界の一流国ロシアを打ち負かしたのは、そのわずか38年前までは前近代の封建社会の日本であった。そしてその海軍を作り上げたのは、40歳の若さで海軍大臣官房主事、後に海軍大臣として長きにわたり、組織を作り、人を育て抜擢し、造船産業を育成し、そして魂を吹き込んだ山本権兵衛であった。彼が信念の人であったエピソード、家庭での意外な素顔、私淑する西郷隆盛とのこと、日露戦争に活きた海軍拡張計画の中身、人事が上手かった理由、などなど。海軍という戦闘組織にあって、戦功とも勇猛さとも異なる部分で、唯一無二となった男の伝記。おすすめ