2020-01-01から1年間の記事一覧

【書評】『日本のピアノ100年』 前間孝則

「日本におけるピアノづくりの歩みは、単なる”モノづくり”の次元を超えて、西洋への同化と超克という、我が国の近代が抱えてきたテーマと密接に関わりあってきた」。そう語る筆者による、日本のピアノづくり100年の歴史。 明治初期、学校教育で音楽の授業が…

【書評】『日本軍の小失敗の研究』 三野正洋

「敗者の側にこそ教訓は多く残っている」。そう語る筆者による、ミクロな視点からの失敗の本質。 日本軍の「大失敗」とは、人口2倍、GNP12倍で、国力は10~50倍の大国と全面戦争したこと。マクロな視点で見た失敗の本質は、この1点に尽きる。だが歴史から教…

【書評】『若き将軍の朝鮮戦争』 白 善燁

平壌一番乗りを果たした朝鮮戦争の英雄であり、33歳で韓国軍初の大将に任じられた筆者による回顧録。 筆者は満州国軍官学校で軍人教育を受け、戦後は若くして軍の要職にあり、常に前線で朝鮮戦争を戦い抜いた。また朝鮮戦争の休戦会談においては韓国代表を務…

【書評】『投資バカの思考法』 藤野英人

「投資とは、自分以外を信じること。自分以外に賭けること」。そう語る、ファンドマネージャーとして活躍する筆者による、投資論、仕事論。 筆者は長年投資業界で働いた後、投信運用会社を起業し、「ひふみ投信」という日本株専門のファンドの運用責任者を務…

【書評】『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』 野嶋剛

世界中で猖獗を極めているCOVID-19。台湾が、なぜその脅威をほぼ完全に封じ込めているかをまとめた一冊。 天才IT大臣のオードリー・タン、ほぼ毎日記者会見を行った鉄人指揮官・陳時中、社会的弱者への目配りを忘れない蔡英文総統など、適材が適時適所に配さ…

【書評】『クビライの挑戦』 杉山正明

「地球規模で世界が一つになるのは19世紀後半からであるが、13世紀にはモンゴルによってユーラシア世界は一つに結び付けられた」。そう語る筆者による、世界史の転換点となったモンゴル時代の解説書。 モンゴル帝国は「文明の破壊者」とみられることが多い。…

【書評】『貧乏人の経済学』 パナジー&デュフロ

開発援助の現場から生まれた、貧困を克服するための新たなるアプローチをまとめた一冊。 世界には10億人もの飢えに苦しむ人々がいると言われている。だがそれは本当だろうか?世界の貧困層の多くは、全消費額の半分以上を食べ物以外に使っているという。飢え…

【書評】『ミッドウェー海戦 第二部』 森史朗

運命の日を迎えた第一航空艦隊。関係者への膨大なインタビューから、その全貌を探る大作。 南雲忠一が犯した最悪の命令違反、山口多門こそが司令官にふさわしい理由、スプールアンスの勝負師としての凄み、永野修身軍令部長がリーダーとして決定的に欠けてい…

【書評】『理不尽な進化』 吉川浩満

「これまで地球上に出現した生物種のうち、99.9%が絶滅してきて、私たちを含む0.1%でさえ、まだ絶滅していないというだけ」。そう語る筆者による、絶滅という観点からみた生物の進化について。 多くの生物は劣っていたからではなく、運が悪かったから絶滅し…

【書評】『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』 スコット・ギャロウェイ

GAFAは福音か、それとも黙示録の四騎士のように破壊をもたらすのか。MBA教授であり、連続起業家でもある筆者による地上の支配者を解き明かした一冊。 彼らはポケットサイズのコンピュータを作り、発展途上国にインターネット網を広げ、世界の詳細な地図を作…

【書評】『公文書危機』 毎日新聞取材班

自衛隊日報隠蔽をはじめとする様々な公文書の不正。毎日新聞取材班が、巨大な官僚組織の内幕に迫った一冊。 近年、国の政策決定の過程が文字にならず、あらゆるところで検証不能になっている。もし政治家や官僚が全く間違いを犯さないなら、記録などという手…

【書評】『僕は少年ゲリラ兵だった 陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』 NKHスペシャル取材班

戦後70年を経て明らかになった、少年兵によるゲリラ部隊の真実。 1944年10月、フィリピンで特攻という命を兵器にする戦術が使われ始めていた。それとほぼ同時期に、沖縄では「護郷隊」という少年兵によるゲリラ部隊が編成されていた。陸軍中野学校出身の将兵…

【書評】『なぜリベラルは敗け続けるのか』 岡田 憲治

「政治において最も重要なことは、政治における友人を増やすこと」。そう語る筆者による、大人のための政治入門書。 なぜリベラルは敗け続けるのか、という直接的なタイトル通りの一冊。本書の内容を要約すれば、リベラルが「政治」を行っていないからだ。自…

【書評】『ミッドウェー海戦 第一部 知略と驕慢』 森史朗

太平洋戦争の転換点となったミッドウェー海戦。当時の作戦関係者への膨大なインタビューから、その全貌を探る大作。第一部は利根四号機の発艦まで。 開戦から半年、日本海軍は負け知らずであった。その中心であった第一航空艦隊は、練達のパイロットと優秀な…

【書評】 『普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊』 クリストファー・ブラウニング

第二次世界大戦中のホロコーストを通じ、「普通の人々」がいかに悪事を行うかに迫ったノンフィクション。 1942年の夏、ナチス占領下のポーランドで1500名のユダヤ人が射殺された。それを実行したのは、第101警察予備大隊。後方勤務のためメンバーの多くは40…

【書評】『かくて行動経済学は生まれり』 マイケル・ルイス

親友であり、ライバルであり、共同研究者であった2人心理学者が、行動経済学という新しい学問を創りあげるまでのノンフィクション。 行動経済学を創った2人の心理学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキー。彼らはともにホロコーストを潜り抜け…

【書評】『誰も農業を知らない』 有坪 民雄

「誰も農業を知らないのは、農業がどの産業よりも多様で、その全てを把握できないから」。そう語る筆者による、日本の農業を知るための最初の一冊。 世の中には様々な人がいる。「農業を手厚く保護すべき」と言う人もいれば、「市場原理に任せれば強い農業に…

【書評】『教養としての社会保障』 香取照幸

「より多くの人がリスクを冒してでも自己実現の挑戦できる社会のために、セーフティネットである社会保障が存在する」。そう語る筆者による、社会保障の入門書。 社会保障の系譜や理念、制度の体系から、日本の社会保障における基本哲学、産業としての社会保…

【書評】『迷いを断つためのストア哲学』 マッシモ ピリウーチ

「ストイック」の語源ともなった、人生訓の元祖、ストア哲学。大学で哲学を教える筆者による、現代人へのストア哲学の勧め。 ストア哲学は2000年以上前のヘレニズム哲学の一派で、ゼノンを開祖とする。今なお輝きを失わない、その考え方のエッセンスとは。結…

【書評】『免疫力を強くする』 宮坂昌之 

現役医師による、免疫の仕組みの解説書。 イソジンでのうがいがなぜ水道水より効果が少ないのか、基本再生産数とは何か、手洗いがインフルエンザの予防に効果が薄い理由、なぜ自分に影響が少ない病気でもワクチンを接種しなければならないか、ストレスと健康…

【書評】『自由論』 ベンサム・ミル

19世紀半ばに書かれた、現代にも通じる古典的自由論。 筆者のミルが生きた19世紀の英国は、絶対王制は過去のものとなり、自由主義的改革がなされていった時代。またいち早く産業革命を成し遂げた英国は、ヴィクトリア女王の下で史上最も輝かしい時代を迎えよ…

【書評】『私に売れないモノはない!』 ジョー・ジラード

「何かを欲しいと思うこと。その欲求が強ければ強いほど、売るための努力を惜しまなくなる」。そう語る筆者による、セールスの極意。 筆者は自動車のセールスとして、15年間で1日平均6台、通算1.3万台の新車を販売したという、ギネス記録の持ち主である。そ…

【書評】『学校では教えてくれない差別と排除の話』 安田浩一

「ある差別を放置しているということは、容認していると同じこと」。そう語る筆者による、今そこにある差別の話。 技能実習制度、在特会、ヘイトスピーチ、沖縄、など現実に存在する様々な差別。筆者がジャーナリストとしての取材を通じ、差別する側、される…

【書評】『どうして子供は勉強しないといけないの』 森満保

なぜ子供は勉強しないといけないのか。誰もが一度は疑問に思うこの問いに、全く新しい角度から切り込む一冊。 筆者は人工内耳の専門家で、決して教育学や脳科学の専門家ではない。だが先天性難聴児への人工内耳手術を通じ、「なぜ子供は勉強しないといけない…

【書評】『アメリカ海兵隊 非営利型組織の自己革新』 野中郁次郎

世界最強の軍隊である、アメリカ海兵隊。組織論の大家による、アメリカ海兵隊の自己変革の歴史。 独立戦争時に設立されたという長い歴史を持ち、現在でこそ栄光と武勲に彩られた組織であるアメリカ海兵隊。だが元々は海軍内のならず者集団であり、常に自らの…

【書評】『「東京裁判」を読む』 半藤一利

日経新聞の連載記事をもとにした、昭和史の泰斗による東京裁判の総括。 東京裁判の記録は、勝った方も負けた方も国立公文書館に残っている。そのためそれを読み直すことで、歴史の検証が可能である。昭和史の大御所らにより明かされる、東京裁判の真実とは。…

【書評】『逆転の大戦争史』 オーナ・ハサウェイ、スコット・シャピーロ

1928年、パリ不戦条約が調印されたこの年は、この年は世界史の分水嶺となった。 旧世界秩序では、戦争は合法であり、領土の略奪は罪に問われない。だがパリ不戦条約以降の新世界秩序では、戦争は非合法とされ、経済封鎖によって無法者の国を抑制する。「忘れ…

【書評】『第二次世界大戦 勝利を実現した革新者たち』ポール・ケネディ

「国家であろうと軍であろうと、巨大組織が「大戦略」を実行するには、トップと中間層と現場のそれぞれの働きがすべて重要となる」。そう語る筆者による、第二次世界大戦での中間層の努力や工夫を描いた一冊。 第二次世界大戦に勝利した連合国は、なぜ勝利で…

【書評】『武田信玄』 笹本正治

誰もが知る「甲斐の虎」、武田信玄。教養や思想など、様々な切り口からその実像に迫った一冊。 武田信玄は、存命中はもとより、現在に至るまで多くの人々から敬愛されている。だがその生涯は、時代の変わり目の中で内外の敵との戦いの生涯でもあった。信虎追…

【書評】『中国文明の歴史』 岡田英弘

中国史の泰斗による、始皇帝から日清戦争までの中国文明の歴史。 筆者の定義では、「中国文明」はBC221年の始皇帝の中国統一に始まり、1895年の日清戦争における清の敗北までを指す。その長い長い歴史を、コンパクトにまとめた一冊。始皇帝の焚書のもう一つ…