【書評】『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 藤野 英人

「投資の最大のお返しとは、明るい未来のこと」。そう語る筆者による、投資家として長年考えてきた「お金の本質」について。
 
色がついていないからこそ、お金には私たちの考えや態度が100%反映される。そして我々があまり考えることの少ない、お金の使い方には、未来を作る力がある。国内で投資信託がすぐに売られる理由、日本のヒーローが「お上」ばかりの理由、誰でもできる社会貢献、地方が「ファスト風土」になる理由、などなど。普段考えることの少ないお金の本質について、筆者の目からうろこの落ちるような考えが満載の一冊。「お金」や「投資」を通じて、世の中をよくするヒントが詰まった一冊。おすすめ

【書評】『異文化受容のパラドックス』 小坂井敏晶

「日本は「閉ざされた社会」であり「開かれた社会」。日本の異文化受容を説明できるかどうかは、このパラドックスを解明できるかどうか」。そう語る筆者による、日本社会の異文化受容の仕組みについて。
 
日本は独自の文化を持ちながら、外来の文化を取り入れ、それを自家薬籠中の物にしてきた。独自文化の保持と、異文化の受容。この一見相反する要素を、日本社会はどのように両立させてきたのか。筆者はこれを免疫システムに例えて説明する。製品名に外来語が多用される理由、広告に西洋人が起用される意味、脱亜入欧の現在、日本文化の特殊性、などなど。異文化受容というパラドックスに対しての、興味深い考察が並ぶ。20年以上前に書かれたとは思えないほど、筆者の論考は今でも輝きを失わない。日本の西洋化を社会心理学の立場から考察した一冊であり、いま世界が直面する異文化との共存について一石を投じる一冊。おすすめ

【書評】『経済は地理から学べ!』 宮路秀作

「地理とは『地球上の理』」。予備校で地理を教える筆者による、地理から見た世界経済。
 
インドでIT産業が栄えた理由、オランダがEU内で重要な理由、オーストラリアが白豪主義を脱した理由、アンカレジ空港が復活できた理由、水力発電の真の利点、などなど。各国の経済を、立地や資源、貿易といったキーワードから読み解く一冊。誰かに話したくなるような知識が満載の一冊。おすすめ

【書評】『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』 ルトガー・ブレグマン

これは、欧州の気鋭の知性による、新世代の経済学である。
 
シンギュラリティにより、人類はAIによって隷属させられるという悲観論が広がっている。隷属なき道は、人類には残されていないのだろうか。
 
筆者は豊富なデータと研究成果を駆使し、それに断固たる楽観論を提示する。ベーシックインカムの効用、貧困が引き起こす真の災厄、「大きな政府」の存在意義、銀行の機能停止によって現れた影響、貿易自由化のインパクト、移民が世界経済に与える福音、などなど。我々の先祖が夢見たユートピア。それは目の前にある。我々は今、ユートピアに到達するために何をすべきなのか。筆者の示す道は、驚きに満ちている。経済学の新たなスタンダードとなるべき一冊であり、新世界への羅針盤となる一冊。いちおし

【書評】『答えのない世界を生きる』 小坂井敏晶

「答えのない世界を生きる」。パリ第八大学で哲学を教える筆者による、この世界で異端であることの存在意義について。
 
これは、混沌とする社会に生きながらも、答えを探せというメッセージではない。革新的なアイディアは、常にその当時の「異端」から生まれてきた。万有引力の法則も、進化論も、地動説も、はじめは皆異端だった。ノーベル物理学賞の受賞者のうち、自国以外で研究成果を出したのは62%にも及ぶ。裏を返せば、ノーベル賞を取るような研究者の中で、「正統派」の研究者は32%しかいないということ。
 
一言で要約できるような、一言で感想を言えるような底の浅い本ではない。異端とは、矛盾とは、変革とは、平等とは、普遍的とは。そんな問いに対して筆者が語り、同時に同じ問いが読者に突き付けられる。「自分は」どうアプローチして、どのような答えを出すのか。哲学とは、本を読んで納得するのではなく、本を読んでから自らに問いかけることだと思う。いちおし

【書評】 『鄙の論理』 細川護煕、岩國哲人

1991年刊行の、当時の熊本県知事と出雲市長による地方開発論。
 
その主張するところはシンプルだ。東京一極集中ではなく、「鄙(ひな)びた」地方にこそ、成長と躍進のチャンスは潜んでいる。自らの地方行政の成果から、筋の通らない霞が関の理論まで、リレー形式で語られた一冊。四半世紀以上前に刊行されたとは思えないほど、その主張は古びることはない。むしろオリンピックによってさらなる東京集中が進められている今こそ、読むべき一冊なのではないだろうか。おすすめ

【書評】『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』 武藤北斗

「会社の役割というのは、その人が幸せに生きていくためのサポートをするという一点に尽きる」。そう語る筆者による、新しい働き方の指南書。
 
筆者はパートを合わせても11名の、小さなエビ加工会社の経営者である。東日本大震災石巻の工場を失い、多額の借金を背負いながら、大阪で再起したため国からの援助は一切なし。そんな中で考え出したのが、「フリースケジュール」という働き方。出社する時間も、退社する時間も、出社するかどうかすら、自分で決められる。しかも会社へ連絡の必要は一切なし。さらに従業員に定期的にアンケートを取り、嫌いな作業はやらなくてもいいという制度まである。筆者はなぜこのような制度を考え付いたのか。そしてこの制度をどのように活かしているのか。これまでのように人を縛る働き方ではなく、よりよく生きて生きていくための、『生きる職場』の作り方。おすすめ