【書評】『ゲッベルスと私』 ブルンヒルデ・ポムゼル

これは、あの狂気の時代を生きた、ある女性の独白である。
 
本書の語り手、ブルンヒルデ・ポムゼルはドイツのごく普通の家庭に生まれ育った。我々と違うことといえば、彼女がナチス宣伝相のゲッペルスの秘書官であったこと。それまで何ものでもなかったヒトラーが権力を獲得していった1930年代、世界が破壊と殺戮に満たされた1940年代、彼女は権力のごく近くにいた。彼女はそこで何をし、何を見たのか。市井の一市民の目線からの、狂気の時代の記録。
 
アイヒマン然り、この筆者も然り、人はそれと知らずに、あるいはごく当然のこととして悪に加担していく。巨大な悪意の前には、個人の意思は無力なのだろうか。我々はポピュリストに踊らされるだけの存在なのだろうか。そうさせないためにも、我々は歴史から学ぶ必要があると思う。人は同じ過ちを何度でも繰り返す。だが歴史を教訓とすれば、過ちは破滅へと結びつくことはない。現在を1930年代にしないために、世界が再び寛容さを失っていく今こそ読まれるべき一冊。おすすめ