【書評】『クリーンミート 培養肉が世界を変える』 ポール・シャピロ

肉の細胞を増殖して、食肉(クリーンミート)をつくる。ベジタリアンでもある筆者が、現実に近づきつつあるこの技術を追ったノンフィクション。
 
世界中には様々な動物が暮らしている。だがその内訳は、我々が思っているよりもはるかに偏っている。世界にはライオン4万頭と豚10億頭、象50万頭と牛15億頭、ベン銀5000万羽と鶏500億羽が暮らしている。そう、我々が食べる家畜が、その圧倒的多数を占めるのだ。その多くは狭く暗い小屋に押し込められ、無理やり太らされている。さらに食肉の中で最も効率のいい鶏であっても、1kcalの肉を得るには、9kcalの餌が必要である。つまり家畜用飼料により、人間が食べる穀物が奪われ、飢餓の原因にすらなっている。農業は「緑の革命」によって、70億の人類を養うに足る進化を遂げた。次は食肉の番だ。
 
クリーンミートを推進すべき数多の理由、19世紀に馬への虐待を劇的に減らした意外な人物、食肉だけに限らないクリーンミート技術の応用先、クリーンミートを普及させるために超えるべき様々な障壁、などなど。クリーンミートが描く未来と、そこに至るまでの課題を描いた一冊。SF世界の中の話ではなく、現実に近づきつつある技術。サブタイトルにもあるように、食卓を、そして世界を変える技術が描く未来とは。知的好奇心を刺激する、至高の一冊。おすすめ