【書評】『論文捏造』 村松秀

世界的な権威を持つ研究所で行われた、論文捏造を巡るノンフィクション。
 
21世紀初頭、アインシュタインハイゼンベルクらと並び称せられた天才科学者がいた。弱冠29歳ながら、彗星のように物理学会に現れ、超伝導の分野でそれまでの常識を覆す大発見を連発する。彼の論文は様々な科学雑誌で取り上げられ、講演の依頼も相次ぎ、多くの研究機関からポストのオファーも来る。天才の名と、科学者としての栄光とをほしいままにしてきた彼だが、その栄光は突然終わりを告げる。彼の論文の多くに意図的な不正行為、つまり捏造が見つかったのだ。
 
この作品の白眉は、終章であると思う。なぜこの論文捏造は起こったのか、どうすれば防げるのか、誰が責任を取るべきなのか。あくまで中立的な観点から、丹念に取材を進めてきた筆者だからこそ描ける、論文捏造を許した科学界の病巣。それは科学立国を標榜する日本人こそが、知っておくべき事実なのではないだろうか。おすすめ