【書評】『「砂漠の狐」ロンメル』 大木毅

ロンメルは蔑みを抱いて、死んでいったのか。だとすれば、その感情は誰に向けられていたのか」。そんな筆者の疑問から始まった、「砂漠の狐」の評伝。
 
エルヴィン・ヨハネル・オイゲン・ロンメルドイツ国防軍で最も有名な軍人であり、敵である連合軍からはナポレオン以来の名将とも言われた将軍である。「砂漠の狐」の異名を取った輝かしい軍功と、ヒトラーに自殺を命じられた最期という悲劇性から、いまだに人気を博す人物である。だが彼は本当に名将だったのだろうか、本当に総統の忠実なしもべだったのだろうか、本当にヒトラー暗殺計画に加担したのだろうか。最新の研究成果を踏まえつつ、虚実ないまぜになっていたロンメル像の真実を暴く一冊。
 
ロンメルは、悲劇の名将だと思う。それは彼が非業の死を遂げたからではない。たまたま目立つ位置にいたことから、プロパガンダの道具として祭り上げられ、自身の不得意とする領域での戦いを余儀なくされたからだ。英雄を必要としていたナチスと、英雄になることを渇望していたロンメル。組織論的にも興味深い一冊であり、歴史の綾を学ぶ上でも最適な一冊。おすすめ