【書評】『愛をばらまけ』 上村 真也

大阪のあいりん地区、そこで奮闘する型破りの牧師と、その信徒たちを追ったノンフィクション。
 
大阪の釜ヶ崎は別の名をあいりん地区。日雇い労働者の街であり、スラム街の代名詞であり、警察署が襲われる暴動事件が何度となく発生してきた街である。そこにほど近い場所にある、メダデ教会。ここで牧師を務める西田好子は、教師を辞めて50歳で大学に通って牧師になり、60歳でこの教会をつくった。有り余る行動力と、常人離れした情熱、そしてあふれる愛とで、一人また一人と信徒を増やしていく。ただそこはあいりん地区、アル中、ギャンブル依存症、シンナー中毒、元受刑者、元ヤクザなど、社会のあらゆるはみ出し者の見本市。このどうしようもない人々と、それをなんとかしようとする西田との涙と笑いの物語。
 
「人間の屑」と蔑まれるような相手であっても、他の信徒から見放されるような人であっても、救いの手を払いのけ罵詈雑言を浴びせてくるような人であっても、西田は決して諦めない。それでも彼女は、愛をばらまく。教会の名となった「メダデ」とは、旧約聖書によると「愛があふれる」という意味である。「神を信じてはいない」と公言する筆者が、「愛は信じてもいいと思うようになった」と語る。読者もまた、西田の行動に、情熱に、そして愛に、心動かされること必須の一冊。いちおし