【書評】『遊牧民から見た世界史』 杉田正明

「「民族」や「国民国家」という枠組みから最も遠いと思われてきた遊牧民を中心テーマに据えて、その興亡・変転のあとを辿ってみたい」。そんな筆者の思いから生まれた、ユーラシアの歴史を遊牧民という視座から見た歴史書。
 
ユーラシアは世界最大の大陸である。だが沿岸地域を除くと、乾燥が共通項となった、同一性のたいへん高い、超広域の生活圏なのである。蛮族、残虐な略奪者、文明の破壊者、などとこれまで散々なイメージで語られてきた遊牧民こそ、その広大な地域の主人公とも言うべき人々なのだ。遊牧民が強大な国家を形成できた理由、その強大な国家が多くの場合あっけなく滅びた理由、遊牧民と農耕民族が共生できる理由、北京が中国の首都である歴史的意義、チンギス・ハンがモンゴル民族に与えた真の価値、モンゴル帝国の世界史的意義、などなど。丹念な研究により、偏見を持って語られることの多かった遊牧民の歴史に、新たな視点をを打ち立てた一冊。いちおし