【書評】『自動人形の城: 人工知能の意図理解をめぐる物語』 川添愛

我々は、機械とコミュニケーションが取れるのだろうか。言葉による「意図の理解」を中心に、「意味理解の先にある課題」をテーマにした一冊。
 
ファンタジー小説の形をとっているが、その実は機械や人工知能と、いかにコミュニケーションするかという課題についての哲学書である。機械は我々の言った「内容」は理解できる。だがその奥にある「意図」や「真意」までは理解できない。だから機械とコミュニケーションするには、具体的で明瞭な指示を出すこと、指示代名詞を適切に使うこと、マクロなどで指示を効率化すること、行動の期限と範囲をあらかじめ指定すること、などが求められる。たとえば「お腹がすいたんだけど」では何も通じない。「食事を作れ」では曖昧過ぎて伝わらない。「A-2の棚にあるパンを2つ、それぞれ3センチ厚に切断し、C-5のトースターで…」などといった指示が必要になる。
 
機械とのコミュニケーションを下敷きにしているが、これは人間同士のコミュニケーションの話でもあるのではないだろうか。お互いの生まれや育ちといったバックグラウンドが異なれば、「当たり前」と考えることは違う。「察する」ことは機械には難しいが、これは人間同士であっても同じであると思う。「伝える」とはどういう行為か。機械との対話という寓話を通じ、その行為を再定義する一冊。おすすめ