【書評】『菊と刀』 ルース・ベネディクト

戦時中の日本人研究から生まれた、日本人論の金字塔。
 
筆者は米国で生まれ育ち、日本を訪れたことがない。また筆者が取材した先はほとんどが日系二世であり、ごく間接的にしか日本に触れたことがない人物である。そのためか、基本的なところでの誤謬が散見される。だが「国民的差異の組織だった研究を行うためには、精神の強靭さとともに、ある程度の寛容さが必要である」との筆者の言葉通り、それらの誤謬を無視すれば、驚くべきほど豊潤な日本人論を見ることが出来る。軍艦や大砲が「日本精神」の象徴となった理由、日本人が華僑のような氏族組織を発展させなかった理由、社畜文化を生み出したメンタリティ、「すみません」が多用される理由、「義理」と「義務」の違い、日本の映画でハッピーエンドが少ない理由、などなど。日本人ですら気づかない、日本人であるからこそ気づけない、日本文化の様々な特性を浮き彫りにする一冊。70年も前に書かれたとは思えないほどの瑞々しさで、日本人の内面を暴き出す一冊。おすすめ