【書評】『リスクと生きる、死者と生きる』 石戸諭

「生き残った人は、どう語り継いでいくかという問いの過程を、生きている」。東日本大震災原発事故の取材手記。
 
筆者は震災直後から三陸沿岸の取材に関わり、原発事故の取材の一環でチェルノブイリも訪れている。筆者も語るように、複雑な感情を、例えば「悲しみ」といったシンプルな言葉で伝えようとすると、必ずそこからこぼれ落ちる何かがある。また「被災者」とは「福島の人」といった大きすぎる主語は、それを伝える人の主張がどうしても貼りついてしまう。ではその中での報道の仕事とは何なのか。記者として何を伝えるべきか。
 
この本には、明確な主張も、的確な指針も、シンプルな結論も書かれているわけではない。「分かりやすさ」が求められる昨今の報道。膨大な情報を乱暴に要約して、大きすぎる感情を四捨五入して、短いニュースはつくられる。それが「伝える」という作業なのかもしれない。だが筆者はそこに疑問を抱く。「分かりやすさ」を排除することは、ある意味記者としての自己矛盾だと思う。だがそれでもなお、筆者はこの本を書くことを選んだ。簡単に読める本でもなければ、単純に楽しめる本でもない。だがこの本を読んで感じる「もやもや感」こそが、筆者が取材を通じて感じ続けてきたことであり、読者と共有したいと願う感情なのではないだろうか。いちおし