【書評】『大唐帝国』 宮崎市定

古代と近世とを結ぶ「谷間の時代」である中世。その時代に東アジアの政治と文化の中心であった唐王朝の歴史を通じて、中世という時代を語る一冊。
 
古代の終焉とはどのような状態を指すのか、後漢で荘園が流行った理由、地方政権が滅亡を免れる方法、関羽張飛の本質的な違い、先進国と後進国の交易で起こること、権力者が家臣を粛正する時、都市を繁栄させる法則、塩の専売が唐王朝にもたらした変化、中世が宗教の時代と言われる理由、などなど。唐王朝だけにとどまらない、筆者の時代も地域も超えた幅広い歴史知識と、そこから導き出される歴史の本質、人間の本質は刮目に値する。
 
正直なところ、この本はタイトルの付け方で損をしていると思う。『大唐帝国』というタイトルでありながら、肝心の唐王朝の話は1/4 ほど。漢の時代に始まり、三国志南北朝、隋、そして唐と古代から中世への中国の歴代王朝の一大叙事詩である。30年以上前の作品でありながら全く古さを感じさせないのは、歴史の本質を衝いた作品であり、人間の本質をあぶりだした作品であるからだと思う。歴史の面白さを、存分に感じられる一冊。いちおし