【書評】『アメリカは食べる。』 東理夫

アメリカは移民の集まりであるからこそ、お互いに影響を与え合い、アメリカの食は変化していかざるを得ない宿命を負っている」。そう語る筆者による、アメリカの食のルポルタージュ
 
アメリカ食と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。ハンバーガー、コーンフレーク、バーベキュー、フライドポテト、ステーキ、フライドチキン。マクドナルドやケンタッキーのようなファーストフードを思い浮かべる向きも多いだろう。それらの食はいかに生まれ、いかにアメリカを代表する食となっていったのだろうか。アメリカ文化に対する深い造詣と、アメリカ中を旅して回った経験から、また日本をはじめとする他の文化との比較から、アメリカ食を語る一冊。なぜお好み焼きは日本食と代表となりえないのか、バーベキューがアメリカ食に与えた影響、南部でバーベキューが盛んな理由、日本でアメリカのファーストフードが広まった理由、アメリカを旅する際に「広さ」を感じづらい理由、缶詰がアメリカの国民食となった理由、アメリカの食が目指すもの、などなど。世界の様々な国の要素を持ちながら、世界のどの国の食とも異なる、アメリカ食。なぜアメリカ食がアメリカ食たりうるのか、その根本を探る一冊。
 
この本を読みながら、まるで自分の身を裂かれるような懐かしさを感じた。それはアメリカを経験したものだけが、アメリカの田舎に住んだことのあるものだけが、アメリカを旅したことのあるものだけが、感じることのできる感情だと思う。食という、人の根本に直結するような、記憶の片隅にいつまでも残るような経験に裏打ちされている以上、誰もが経験しうる感情だと思う。700ページを超える大著であり、軽々しく読める一冊ではない。だがアメリカを知るうえで、本書は必読と言っても過言ではない。食を通じてアメリカの現在を、そして変わりゆく先の未来を、解き明かす一冊。いちおし