【書評】『矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る』 御田寺圭

「弱者救済の優先順位は、世間に「かわいそう」だと思ってもらえる要素をどれだけ持っているかの序列に支配されている」。そう語る筆者による、現代社会の抱える矛盾について。
 
アメリカで殺処分される犬は、黒い大型犬ばかりだそうだ。そのような犬ばかりが保護されるのではない。多くの種類の捨て犬が保護される中で、毛並みの明るい犬、あるいは小柄な犬は、比較的容易に引き取り手が現れる。だが大きく黒い犬は多くの場合敬遠され、引き取り手がないことから殺処分されてしまうという。現代日本でもまた、それは形を変えて見られる光景である。自由な社会において「何か・誰かを選ぶ」ということは、「選ばれない何か・誰か」がセットになって生じる。それはすなわち、救われる者と、救われない者とが存在する、矛盾をはらんだ世界だということだ。
 
男性の方が自殺率が高い理由、「ワンオペ育児」の背景にあるもの、無縁社会を望んだ者たち、自粛と不謹慎の心理、「一億総活躍社会」の先にあるもの、若者が地元を離れる理由、この国で働くことが苦しい理由、などなど。「自由」と本来は対であるはずの「不自由」。あまり光を当てられることのないその不自由の行く先について、丁寧な考察が光る一冊。いちおし