【書評】『クビライの挑戦』 杉山正明

「地球規模で世界が一つになるのは19世紀後半からであるが、13世紀にはモンゴルによってユーラシア世界は一つに結び付けられた」。そう語る筆者による、世界史の転換点となったモンゴル時代の解説書。
 
モンゴル帝国は「文明の破壊者」とみられることが多い。だがこれは西欧や中国からの一方的な見方に過ぎない。流通拠点の整備による商業の推進、戦争の産業化、基準通貨の導入、グローバルな人材登用など、グローバル世界の原型は13世紀にモンゴルが成し遂げたことであった。国家が通商を推進し、国民利益の獲得を第一目的とする。これによって社会も国家も反映するという近代社会の原型は、モンゴル時代につくられたのである。クビライと豊臣秀吉の共通点、元の中央政府と地方政府の大きな違い、銀河グローバルな基準通貨となった理由、日本で通貨が流通し始めたきっかけ、などなど。強大な軍事力だけで語られることの多いモンゴル帝国が、いかに現在の世界の基盤を作っていったかがよくわかる一冊。「驚き」は知識の源泉であり、自分の主観的モデルに基づいた予想が裏切られ続けている限り、現実から新しく学ぶ可能性を持つという。知識がアップデートされ、新しい視界が開ける学びの楽しさを再確認させてくれる一冊。いちおし