【書評】『真実の原敬』 伊藤之雄

「原は明治維新を受け継ぎ、日本を新しい国際環境に適合させるため、大改革を行った」。そう語る筆者による、平民宰相の真実。
 
原敬は、歴代の総理大臣の中でもかなり名の知られている人物である。賊軍であった東北出身、本格的な政党内閣、爵位を持たない平民宰相、東京駅での暗殺など、話題には事欠かかない政治家である。しかも公共事業で党勢拡大を目指した利権誘導、フランス仕込みのお洒落や当時珍しかった生ビールなどのハイカラ趣味など、政治以外の部分でも多くの顔を持つ。エピソードが多すぎるゆえに、かえって分かりにくくなった彼の実像を追った意欲作。
 
明治の高揚感と、昭和初期の閉塞感に挟まれた大正時代は、日本のターニングポイントとも言える時代だったと思う。その時代に、原敬という偉大な人物を得た幸運と、彼を失った不幸とは、どちらが大きいのだろうか。おすすめ