【書評】『断片的なものの社会学』 岸政彦

社会学者である筆者による、この生きづらい世界をめぐるエッセイ集。
 
不思議な本である。まるでモノクロの写真集を眺めているような錯覚に陥る。そんな淡々とした、抑揚のない話しぶりの中に、思い出したかのようにはっとさせられる言葉が紛れ込んでいる。油断すれば見逃してしまうような文章の中に、思わずため息が出るような、共感できる文章が潜んでいる。筆者にとっての世界とは、きっとこの本のようなものなのかもしれない。淡々と過ぎていく日々の中で、注意していないと見逃してしまうような、心動かされる瞬間に出会う。もっとこの筆者の作品を読みたいと思わせる、不思議な魔力を持った本である。同時にこの本をすぐに閉じて、自分の周りの世界をより深く眺めてみたくなる一冊でもある。おすすめ