【書評】『アメリカは忘れない』 エミリー・S・ローゼンバーグ

「よく知られた「歴史」の一部となるには、人の心を引きつけ、何らかのメディアを介して操作された形態で記憶されなければならない」。そう語る筆者による、「パールハーバー」が米国のアイコンとなるまでの歴史。
 
ローズヴェルトが対日参戦の根拠としたのは、資源を守るためでもなく、独裁者の侵略を阻止するでもなく、日本の中国侵略への制裁でもなかった。それは今まで使われなかった「恥じ入らずな蛮行」という単独の根拠によって、米国は第二次大戦に参戦したのである。それまで米国人の間ですら知名度のなかった「パールハーバー」が、いかに米国の団結の象徴になっていったか、そして戦後にいかに政治利用されてきたかの歴史を語る一冊。日米貿易摩擦の際も、9.11 の際も、「パールハーバー」は米国の危機の象徴として、国民に団結を呼びかける象徴として使われてきた。真珠湾攻撃以上に米国が被害を被った戦いは数多あり、真珠湾攻撃以上に米国が衝撃を受けた事件も数多ある。だがその中で、なぜ「パールハーバー」だけが繰り返し使われてきたのか。ある出来事が歴史となっていく過程と、歴史が今に至るまで生き続けるメカニズムを解き明かした一冊。おすすめ