【書評】『桶川ストーカー殺人事件 遺言』 清水潔

これは、一介の雑誌記者の義憤の物語である。
 
筆者が取材に関わった、桶川駅前で起きた殺人事件。ストーカー被害に悩まされ、身の危険を感じていた被害者の再三の訴えにもかかわらず、埼玉県警は動かずに事件は起きてしまった。それに加えて、埼玉県警は事件自体をもみ消そうとする。埼玉県警との関係悪化を恐れて、報道が後手に回る大手マスコミ。筆者の筆圧すら感じる圧倒的な文章力、胸が締め付けられるような義憤。超一流の文章だけが持つ圧倒的な迫力で、ページを繰る手が止まらなくなる、ノンフィクションの最高峰。
 
自らの仕事を「三流」週刊誌の記者と卑下する筆者。だがその仕事は、丹念な取材と誰よりも強い正義感で、誰も真似できないもの。正義はどこにあるのか、報道とはどうあるべきか、そして仕事の誇りとは何かを考えさせてくれる一冊。いちおし