【書評】『貧困と自己責任の近世日本史』 木下光生

「貧困救済に対する現代日本社会の向き合い方を解く鍵は、近世日本の村社会にあるのではないか」。そんな筆者の仮説から生まれた、江戸時代から現代までの貧困救済史。
 
21世紀日本は、生活困窮者の公的救済に冷たく、異常なまでに「自己責任」を追求する社会になっている。では、そのそも困窮者への支援はいかに始まり、今へとつながっているのだろうか。筆者の研究で明らかになったのは、元々村社会では村民相互の支援が主流で、公的支援は明治になって始まったものだということ。「『健康で文化的な最低限度の生活』を謳う憲法25条は、歴史的にみて画期的過ぎるため、その生活保障観念はいまだに根付いていない」との結言が、静かな衝撃として読む者の心を打つ一冊。
 
当時の戸籍からは、家族の名前や年齢、石高から各作物の収入、さらには支出の内訳まで、克明に記録されている。そのような記録が残されていることにも驚きだが、そんな豊富な一次史料を読み解き、通説とは異なる当時の「当たり前」を紐解いていく。今まで常識と思っていた事柄が崩されていく痛快さと、そこから見えてくる江戸時代の人々の息遣い。今の我々に通じる社会や文化が、確かにそこにはある。そんな歴史研究の面白さを追体験できる貴重な一冊でもある。いちおし