【書評】『日本のピアノ100年』 前間孝則

「日本におけるピアノづくりの歩みは、単なる”モノづくり”の次元を超えて、西洋への同化と超克という、我が国の近代が抱えてきたテーマと密接に関わりあってきた」。そう語る筆者による、日本のピアノづくり100年の歴史。
 
明治初期、学校教育で音楽の授業が始まった。それに不可欠なのがオルガン、そしてピアノである。当初は輸入品ばかりであった市場だが、様々な職人たちがピアノの製造に取り組む。後に日本のピアノ産業は世界最大の製造数を誇り、また品質においても超一流のピアニストたちから絶賛されるまでになった。ピアノづくりを通して日本のモノづくりの軌跡を描いた一冊。流れ者の職人であった山葉寅楠が浜松で受け入れられた理由、浜松がピアノ製造のメッカとなったきっかけ、ヤマハが作り上げた新しいビジネスモデル、ピアノと団地との共通点、日本のピアノづくりが持つ優位点、日本のピアノ産業が向かうべき方向、などなど。明治のキャッチアップ期から戦後の興隆、そして新たな試練に直面した現在と、ピアノ産業が辿ってきた100年は、日本の産業が歩んできた道と軌を一にする。本書で繰り返し述べられているのが、大量生産される「工業製品」と、職人が手作りする「工芸品」や「楽器」とは違うということ。ピアノ産業が辿ってきた道と、直面する課題とは、多くの人々のヒントとなるはず。おすすめ