【書評】『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか』 高橋祥子

「人はテクノロジーそのものではなく、それによってもたらされる一人一人の「私」への影響に関心がある」。そう語る筆者による、テクノロジーと我々の生活の交点を探る一冊。
 
研究者兼起業家として、遺伝子をチェックできるベンチャービジネスを展開する筆者。ゲノム解析の話も興味深いが、それ以上にこの本の主眼になっているのが、テクノロジーとの付き合い方である。ゲノム解析も、遺伝子組み換え食品も、自動運転も、近年の新しいテクノロジーに不安を感じる人は多い。それは、その進歩に私たちの理解が追い付いていないからだ。テクノロジーが登場した瞬間に、社会はその是非を判断できない。ある程度使われて事例が集まってから、議論が始まる。ところがますますその速度を上げるテクノロジーの進歩は、我々の理解の速度を超えるようになった。そのギャップこそが、テクノロジーを社会に適用する上でのネックになると、筆者は語る。
 
かつてラダイト運動がテクノロジーの展開を阻止しようとしたが、近年はラダイト運動をする間もなくテクノロジーは社会に広まり、我々の生活を変えていく。テクノロジーの進歩は止められない。ならば、かつてダーウィンが述べたように、外部環境に適応できるものだけが、これからの社会で生き残れるのではないだろうか。テクノロジーの進歩という大上段の話ではなく、「私」の生活をどう変えるかという身近な話のため、分かりやすく腑に落ちる一冊。これからの社会で、テクノロジーを考えるうえで必読と言っていい一冊。おすすめ