【書評】『海民と日本社会』 網野善彦

陸の農業からの視点でしか語られてこなかった日本史に、海民という新たな視点を加えた筆者。その講演録。
 
「百姓」は農民のことではない。今までの歴史認識を覆す「網野史観」を確立した筆者。江戸時代の能登の「百姓」の研究から、「百の姓」としての、商業民や職人としての民衆の生き様をつぶさに紐解いてきた。愛知、和歌山、愛媛、大分、北九州、尼崎など各地での講演は、そんな筆者の歴史観を基にしている。だが講演に先立っての研究で、筆者は「網野史観」が江戸時代や能登という、時代や土地だけに囚われた歴史観ではないことを発見する。「日本」が生まれた7世紀後半以降において、大量物資輸送の経済の道は、海と川であった。今では辺境の地と思われている日本海側や半島こそが、交易で栄えた土地であったのだ。視点を変えることで、今まで見えてこない世界が見えてくる。そんな当たり前のことを再確認させてくれる、知的好奇心をくすぐる一冊。おすすめ