【書評】『防災アプリ特務機関NERV』 川口穣 

日本最大の防災アプリであり、Xアカウントである特務機関NERV。謎に包まれた機関の、内実を探ったノンフィクション。
 
特務機関NERVとは、エヴァンゲリオンシリーズに登場する、使徒殲滅を主要任務とする架空の組織である。そしてまた、災害情報を最速で配信する実在の組織でもある。その創業者と、NERVの歩みを追った一冊。創業者である天災ハッカー石森の生い立ち、彼の運命を変えた3月11日、「NERV」の名を使うジレンマ、NERVが社会インフラになるまで、石森が持つ最大の武器、などなど。大学生の遊びが、人を動かし、社会を変え、そしていつしか当たり前の風景となる。そんな壮大な物語を描いた一冊。おすすめ

【書評】『人生後半の戦略書』 アーサー・C・ブルックス

「多くの人が、キャリアと体力と気力の落ち込みは避けられない」。そう語る筆者による、人生とキャリアを再構築する方法。
 
高いスキルを要する職業であればほぼ例外なく、30代後半から50代前半にキャリアが落ち込み始める。しかもピークが高ければ高いほど、キャリアは落ち込み始めたら一気に落ちる。ではそれを克服するにはどうすればいいか。様々な職業における仕事技量の落ち込み、人生の満足度に影響を及ぼす要素、周りに人がいても孤独を感じるわけ、信仰心を深めるために必要なこと、成功のための三行の法則、などなど。弱さと向き合い、人生を再起動させるヒントが満載の一冊。おすすめ

【書評】『異彩を、放て。』 松田 文登, 松田 崇弥

「既存の構造をひっくり返して逆転現象を起こすことで、世の中の「当たり前」がぐにゃりと揺らぎ、「常識」が覆る」。そう語る筆者による、福祉とアートの新しい関係。
 
筆者は双子の兄弟で会社を経営している。ミッションは「異彩を、放て。」。様々な知的障害者のアート作品を軸に、様々な事業を展開している。自身も障害者の兄を持つ、そんな彼らの冒険譚。「ヘラルボニー」という会社名の意味、「ふつう」でないことの可能性について、兄弟が選んだそれぞれの道、創業までの偶然と必然、双子経営者の強み、ヘラルボニーが目指す未来、などなど。現状を、肩肘張らずにさらりと変えていく、スマートな革命の物語。読めばきっと、勇気をもらえる一冊。おすすめ

【書評】『幸福優位7つの法則』 ショーン・エイカー

幸福になるにはどうすればいいか、最新の理論をまとめた一冊。
 
筆者はポジティブ心理学の第一人者である。鬱や心の病などを研究する「ネガティブ心理学」ではなく、どうすれば幸福になれるかを考えるのが「ポジティブ心理学」である。筆者の研究から見えてきた、幸福になるための処方箋とは。長生きする人に共通する習慣、部下を褒めることの大きな効果、従業員のやる気を失わせるシンプルな方法、観葉植物が幸福度に与える影響、脳の仕組みを利用した簡単なダイエット、効率重視のUPS社がドライバー同士のランチを推奨する理由、などなど。シンプルですぐに試せる方法でありながら、幸福度を高める方法が満載。きっと明日から、いや今日から試してみたくなること請け合いの一冊。おすすめ

【書評】『最高の脳で働く方法』 デイビッド・ロック

脳に関する最新の発見から、仕事のパフォーマンスを変えていく一冊。
 
筆者は「ニューロリーダーシップ」を提唱し、脳科学研究を用いて個人や組織のパフォーマンス向上を図っている。そんな筆者の研究から生まれた、脳を活かす方法。ToDoリストをつくるだけでパフォーマンスが上がる理由、知らない道では会話が少なくなるわけ、アイディアを人に話すべき理由、何かを考えるときに視線を外すわけ、選択権とストレスの関係、期待しすぎない方がいい理由、脳が好む感覚、などなど。今日から実践できる、実践的な知見の数々。脳と自分のパフォーマンスを上げるのに最適な一冊。おすすめ

【書評】『火器の誕生とヨーロッパの戦争』 バート・S・ホール

火器がどのように決定的な兵器となっていったか、技術面から戦争の進化論。
 
14世紀に火器は発明されたが、当初は補助的な兵器であった。だが様々な技術の進歩と、戦術の進化により、戦場の主役となっていく。主に15~16世紀のヨーロッパを中心とした、戦争と技術の関係。完全な技術史に不可欠なもの、欧州貴族が一騎討ちを好んだ理由、大砲の出現が守備側に不利なわけ、マスケット銃の命中精度に関する考察、火砲が16世紀の人々に与えた社会的な衝撃、重騎兵が火砲の出現後も残った理由、などなど。歴史の新たな切り口を提案する一冊。おすすめ

【書評】『鎌倉幕府と室町幕府』 山田徹、谷口雄太、木下竜馬 

鎌倉幕府室町幕府、今様々な新発見が相次ぐこの時代の、最新研究をまとめた一冊。
 
鎌倉時代室町時代は、地味で人気の薄い時代である。いや、「であった」と言ったほうが正確である。なぜならこれらの時代は、歴史研究者の間で最もホットな時代であるからである。気鋭の研究者たちが様々な学説を繰り出し、一昔前の常識が通用しない、歴史マニア垂涎の時代なのである。島津家が九州に移住したきっかけ、室町時代の守護の領国が飛び地になっている必然、蒙古襲来後の御家人の処遇、末期鎌倉幕府が盤石であった証拠、室町時代の内乱が長引く理由、などなど。思わず人に話したくなる話が山盛りの一冊。おすすめ