【書評】『失われた宗教を生きる人々』 ジェラード・ラッセル

中東・西アジア地域は、一般的にはイスラーム世界と思われているが、現実には他宗教の世界である、英国外交官であった筆者による、そんな多宗教世界のレポート。

中東といえばイスラーム教。確かに人口比で見ればイスラーム教徒が圧倒的だが、ユダヤ教キリスト教もこの地域に端を発している。さらにそれらの宗教の一派などを含めれば、インドをも凌ぐほどに、ここは多宗教の世界である。サーサーン朝ペルシアの国教であったゾロアスター教イスラームの一派でありながらパレスチナ人とは距離を置くドゥールズ派、「良きサマリア人」で知られるサマリア人、原始キリスト教の一派であるコプト教、などなど。日本でも名前だけならよく知られている宗教から、もはや消滅寸前の宗教まで、バラエティに富んだ様々な宗教が紹介されている。これらの多くは互いに影響しあい、信者にすら教義はあやふやで、しかも古代語を使用しているため、研究者にとってすら取り扱いが難しい宗教である。筆者が外交官として多くの庶民と触れ合う中で、見つけてきたそれぞれの宗教の信仰、風習、大事にしている考え方など。宗教の専門家ではないからこそ見えてくる、様々な考え方が興味深い。中東を知るうえで、有力な補助線となる一冊。おすすめ