【書評】『ゾミア』 ジェームズ・C・スコット

「元々は平地で暮らし、何かの事情で山に移り住んだ人々の暮らしが、平地文明の本質を映し出す鏡になっている」。そう語る筆者による、山地民から見た国家論。
 
ゾミアとは、ベトナムからインド北東部にかけての山岳地帯のことで、250万平方キロメートルもの広大な土地と、1億人にも及ぶ多種の少数民族が住んでいる。山岳地帯ゆえに、いまだに国民国家に統合されていない人々も多数存在する。この地域を研究することで、国家形成についてのもう一つの視点が得られる。中央集権型で、人口密集型の平地国家。平等主義で流動的な社会構造を持つ山地民。この2つの対比をベースに、人類がいかに国家を生み出し、いかに国家を築いてきたかについての、重厚かつ壮大な物語。
 
日本においても、平家の落人伝説やマタギなど、山地民はある者は戦に敗れ、ある者は自らの選択として、平地に位置する中央集権国家から逃れ、山地に自分たちの「独立国」を形成していた。世界的に見ても、ゾミアをはじめジプシー、コサックなどの強権国家から押し出されてきた人々は枚挙にいとまがない。これらの「語られることのない」人々の歴史は、我々が学校で習ってきた平地の集権国家の歴史は、コインの裏表であると思う。原始的な野蛮人という、山地民のステレオタイプを打ち破る一冊であり、人類史の新たな地平を拓く挑戦的な一冊。いちおし