【書評】『科学立国の危機: 失速する日本の研究力』 豊田 長康

 
「博士課程修了者数も、学術論文数も、どちらもGDPに相関する」。データを基にそう語る筆者による、「科学立国」日本の現状。
 
筆者は長きにわたり、大学の研究者として、また大学経営者として活躍してきた。そんな筆者に見えてきた、科学立国の危機。天然資源に恵まれない日本にとって、科学技術は唯一と言っていいほどの稼ぎ口であり、外貨獲得手段である。だがそんな命綱に対し、「選択と集中」を名目に大学予算は大幅に削られてきた。その結果として、人口あたり論文数は世界38位、その論文の質は世界44位と、東欧の旧共産国並みの水準に落ち込んでいる。また「選択と集中」が行き過ぎたことにより、研究力を支える中堅大学の裾野の広さも目も当てられない有様である。
 
政策の失敗がこれだけ顕著に出ている例も珍しい。漠然としたイメージで語るのではなく、研究者らしく豊富なデータを丁寧に分析することで、説得力と分かりやすさを両立している。明日の食い扶持を失わないためにも、今多くの人に読まれるべき労作だと思う。いちおし