【書評】『誰も農業を知らない』 有坪 民雄

「誰も農業を知らないのは、農業がどの産業よりも多様で、その全てを把握できないから」。そう語る筆者による、日本の農業を知るための最初の一冊。
 
世の中には様々な人がいる。「農業を手厚く保護すべき」と言う人もいれば、「市場原理に任せれば強い農業になる」と主張する人もいれば、「六次産業化で農業は甦る」と信じる人がいるかと思えば、「ハイテク農業で生産性は向上する」と期待する人もいる。だがそれらの主張は、ほとんどの農家に気にすらされていない。なぜなら農業論をぶつ人も、農家自身ですら、農業をよく知らないからだ。遺伝子組み換え作物が安全な本質的理由、無農薬農法が胡散臭いわけ、六次産業化の期待と現実、大規模農家の不都合な真実コシヒカリが農業界にもたらしたひずみ、などなど。経営コンサルタントとして培った論理構成と、現役の専業農家として得た経験とが、この本に特別な説得力を持たせている。筆者自らが認めるように、この本に書かれているのはあくまで農業の一側面、筆者が認識できる部分に過ぎない。だが農業を知るうえでの、最初に知るべき一部分となる一冊。おすすめ