【書評】『現代経済学の直観的方法』 長沼 伸一郎

「我々の経済社会は、欲望を満足させて利益を極大化させようとするただ一つの力で動いている」。そう語る筆者による、経済学のオールインワン中級書。
 
筆者は物理学者として、様々な著作を著している。難解な物理学や、歴史、哲学などに造詣の深い人は数多いが、そんな人でも経済学はさっぱりという人は少なくない。これは理系の研究者に関しても然りである。そういった「教養の高い非経済人」向けに、用語解説から始める入門書と、専門用語で埋め尽くされた専門書の間をつなぐ一冊。資本主義の成長を阻害するために中世で行われてきたこと、脱成長論の不都合な真実第一次産業が多くの国で衰退する理由、江戸幕府贅沢禁止令を出したわけ、インフレのメカニズム、富岡製糸場の世界史的意味、産業ロボットの矛盾、宮廷で必要以上に召使を雇う理由、多様化のジレンマ、などなど。ベースとなる基礎教養は必要だが、経済学という大きな分野の大筋を掴む、目から鱗の落ちる話が満載。座右に置いて、繰り返し読みたい一冊。いちおし