【書評】『暁の宇品』 堀川 惠子

「人類初の原子爆弾は、なぜ広島に投下されなくてはならなかったか」。そんな筆者の疑問から始まった、宇品の歴史。
 
1894年の日清戦争を機に、大本営が広島に移されたことはよく知られている。のみならず、帝国議会も広島で開かれ、首相をはじめとする閣僚も広島に移り、極めつけは明治天皇までもが広島に移った。「広島遷都」と呼ぶ歴史家もいるほどの事態は、なぜ発生したのか。その答えは、広島南部の埋め立て地、宇品にある。宇品港は陸軍最大の輸送基地であり、日清戦争から日露戦争第一次大戦満洲事変、日中戦争、そして太平洋戦争と、この国の全ての近代戦争において重要な役割を果たした。幾百万の兵士と、膨大な武器弾薬、溢れんばかりの食料に、戦争に必要なありとあらゆるものは、この宇品港から送り出されてきた。その宇品港を統括するのは、陸軍船舶司令官。陸軍軍人でありながら、船舶輸送に精通した海の男である。「船舶の神」と呼ばれた、たたき上げのプロフェッショナル、田尻昌次中将。彼の後を受けて太平洋戦争の船舶輸送を一手に引き受け、また原爆投下後の広島で獅子奮迅の救援活動を行った、佐伯文郎中将。この二人の物語を軸にした、宇品と、船舶輸送の壮大な物語。おすすめ