【書評】 『シュリーマン 黄金と偽りのトロイ』 デイヴィッド・トレイル

シュリーマンの膨大な手紙や日記の中で、彼が発掘開始以前にトロイに関心を持っていたことを示す記述は存在しない」。そう語る筆者による、シュリーマンの評伝。
 
ハインリヒ・シュリーマンは伝説的な人物である。幼い日にトロイの神話に憧れ、長じてもその憧れを持ち続け、商売で大成功を収めた後に発掘調査に乗り出し、一介の素人が本当にトロイの遺跡を発見する。巷間語られてきたシュリーマンのイメージである。だが彼の言動をつぶさに追ってみると、自伝を書くたびに異なる逸話を物語り、虚言癖で様々な人物の信用を失い、事実を捻じ曲げることに良心の呵責を感じない人物であった。偉人の素顔を暴く一冊であるが、筆者も述べているように彼は英雄になるべく奮闘し、その驚嘆すべき成功のゆえに、古今を通じて最も象徴的な考古学者であり続けている。功罪共に巨大な、考古学の巨人の真実に迫る一冊。おすすめ