2019-01-01から1年間の記事一覧

【書評】『経営戦略の論理』 伊丹 敬之

「経営の本質とは、「いまだあらざる姿」を求めるところにある」。経営学の重鎮による、人間心理にまで踏み込んだ経営戦略。 戦略に目標を入れない理由、情報的資源の特性、事業の絞り込みが必要な心理的理由、顧客の種類、競争の武器の変遷、事業の相乗効果…

【書評】『人生論』 トルストイ

「この世界こそが本当の生命なのであり、残り続け、永遠に生き続けていく」。ロシアが誇る文豪が著した、永遠の問いに対する答え。 考えるとはどういうことか、自己とはどのような存在か、真の生命とは何か、他者のために生きるとはどういうことか、快楽の副…

【書評】『神話の力』 ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ

神話学の泰斗であるジョーゼフ・キャンベルと、ジャーナリストのビル・モイヤーズの対談集。 世界中の民族が、各々の神話を持つ。その神話体系には共通の主題も多く、人類社会の一つの基盤ともなっている。宗教とは、神とは、儀式とは、英雄とは、理性とは、…

【書評】『ラ・ロシュフコー箴言集』 ラ・ロシュフコー

「我々は生涯の様々な年齢に全くの新参者としてたどり着く。だから、多くの場合、いくら年をとってもその年齢においては経験不足なのであ」。17世紀フランスの貴族であった、ラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世の箴言をまとめた一冊。 筆者が生きた時代のフ…

【書評】『とんでもない死に方の科学 もし○○したら、あなたはこう死ぬ』 コーディー・キャシディー

45通りのシナリオで、人が具体的にどのように死ぬかをまとめた一冊。 旅客機の窓が割れたら、バナナの皮を踏んだら、生きたまま埋葬されたら、隕石が当たったら、載っているエレベータのケーブルが切れたら、眠れなかったら、コンドルに育てられたら、生贄と…

【書評】『墨子』 草野知子

諸子百家の時代には儒教と並び称される存在であった思想、墨家の入門書。 侵略戦争を否定しする「非攻」、自分や近親者だけではなく全ての者を等しく愛する「兼愛」、徹底した実用主義と節約志向、虚礼の否定、実証的な科学思考、冷徹な人材確保術と人材活用…

【書評】『君主論』 マキアヴェリ

「愛されるより恐れられる方が、はるかに安全である」。500年もの間読み継がれてきた、近代政治学の教科書。 仕返しをされないためには、誰かを抜擢するときの注意点、他人の援助を断るべき理由、残酷さの出しどころ、傭兵の弱点、現実と理想とのギャップに…

【書評】『ホワット・イフ?』 ランドール・ マンロー

筆者のウェブサイトに投稿された、突拍子もない質問とそれに対する答えをまとめた、アメリカ版空想科学読本。 地球の自転が止まったら、ピッチャーが光速の90%の速度でボールを投げたら、レーザーポインタで月の色を変えるには、地球上全ての人間が1か所で一…

【書評】『ホワット・イズ・ディス? むずかしいことをシンプルに言ってみた』 ランドール・ マンロー

5歳児でも分かるように、この世の難しいことをシンプルに説明した図鑑。 宇宙ステーション、細胞、ヘリコプター、電子レンジ、油田、太陽系、周期表、などなど。この世の説明の難しい様々なことを、専門用語を使わずに簡単な言葉で説明した一冊、専門用語を…

【書評】『行こう、どこにもなかった方法で』 寺尾玄

「どんな試みも、それが不可能であることを証明するのは、不可能なのだ」。扇風機や空気清浄機、トースターなど、今まで見慣れた製品を、革新的なものに変えてきたバルミューダ。その創業者の波乱万丈の半生記。 筆者は現在、家電メーカーの経営者である。だ…

【書評】『中国史』下 宮崎市定

中国史の大家による、夏王朝から中華人民共和国までの中国全史。下巻は宋の統一から現代まで。 アルファベットと比べた漢字の利点、党派対立時に生き残る方法、モンゴル帝国と中華料理の意外な関係、景気循環と王朝交代のメカニズム、文化の進展が歴史機与え…

【書評】『善と悪の経済学』 トーマス・セドラチェク

「どんな経済学も、結局のところは善悪を扱っている」。そう語る筆者による、大きな物語としての経済学。 ギルガメシュ叙事詩、旧約聖書、キリスト教、デカルト、アダム・スミス、などなど。古典から経済思想のルーツをたどる一冊。ただし、筆者の幅広い教養…

【書評】『中国史』上 宮崎市定

中国史の大家による、夏王朝から中華人民共和国までの中国全史。上巻は古代、中世の唐から五代十国時代まで。 「過去を整理しておかねば、明日の生活に支障を来すことになる」。絶えず将来に備えながら、過去を振り返って整理する。我々の生活は、正反対の方…

【書評】『東洋的近世』 宮崎市定

「中国の文化は何といっても田舎文化である。それにもかかわらず田舎としては不相応な進歩を遂げたのは、文化を支持する量の威力である」。そう語る近世中国史の泰斗による、東洋における近世の形。 人類の歴史は、古代、中世、近世と時代が移っていく。だが…

【書評】『反共感論』 ポール・ブルーム

「共感は愚かな判断を招き、無関心や残虐な行為を動機づけることも多い」。そう語る筆者による、共感が人間に与える負の側面について。 センセーショナルな事件や、痛ましい事故のニュース。これらを見ると、我々は被害者に共感を覚える。だがそれよりもはる…

【書評】 『消された信仰「最後のかくれキリシタン」-長崎・生月島の人々』 広野 真嗣

2018年7月に世界文化遺産に登録された、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。暫定リストには登録されながら、本登録の際に外された生月島の、キリスト教信仰を折ったノンフィクション。 生月島は「隠れキリシタン」の島である。それでありながら、…

【書評】『応援される会社 熱いファンがつく仕組みづくり』 新井範子、 山川悟

「ブランド価値を高めようとする行動の主体は、今や顧客側にある」。そう語る筆者による、企業のファンになってもらうための方法論。 応援経済という言葉はごく最近生まれ、その影響力を拡大している。応援される会社と、されない会社、それを分けるものは何…

【書評】『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』 シェリル・サンドバーグ、アダム・グラント

「朝が来れば、起きるしかなかった。ショックを、悲嘆を、生き残った事への罪悪感を乗り越えるしかなかった」。夫の急死という試練を経た筆者が語る、レジリエンス(回復する力)の鍛え方。 「部屋の中のゾウ」という誰もが見て見ぬふりをしている問題の対処法…

【書評】『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』 ブレイディみかこ

「社会が本当に変わるということは、地べたが変わるということだ」。英国における最底辺の託児所で働いた経験を基に語られる、寛容さを失っていく社会の記録。 筆者は保育士として、英国の底辺託児所やミドルクラス向けの保育園で働いた経験を持つ。折しも福…

【書評】『戦略参謀の仕事』 稲田将人

「参謀役は経営トップへの登竜門」。そう語る筆者による、企業の戦略参謀の目線から語る経営論。 日本企業では、たとえばGEのような次期経営者を育てる仕組みはあまり見られない。そんな中で、いくつかの優良企業では社長や事業責任者の機能の一部を代行する…

【書評】『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質』 折木良一

「自衛隊が敗北するときは、わが国が滅ぶとき」。そう語る筆者による、真に負けないための戦略の要諦。 筆者は東日本大震災の時の、自衛隊トップである統合幕僚長であった。そんな「戦時」の指揮官だからこそ知り得た、戦略の本質とは。ケネディ大統領があえ…

【書評】『太陽を創った少年』 トム・クラインズ

9歳でロケットを自作し、14歳で核融合炉を作った早熟の天才、テイラー・ウィルソン。彼の物語を通じて、天才児の才能を開花させる方法を探る一冊。 教育専門家の推定によると、学業面でのgifted(才能を授かった) の子どもは6~10%におよぶという。ではなぜテ…

【書評】『パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学』 池谷裕二

脳科学者である筆者が、自分の子育てを通じて、脳の発達を考えた記録。 なぜ人は赤ちゃん言葉を使うのか、なぜ大人は辛いものが食べられるのか、なぜ鳥は三歩歩けばものを忘れるのか、なぜ子供は習いもしない文法を習得できるのか、なぜ子どもに様々な経験を…

【書評】『文学問題(F+f)+』 山本貴光

「「文学とはなにか?」という問いは、何の役に立つか分からない文学なる営みを、なぜ人は五千年も続けてきたのか、という問いである」。そう述べる筆者による、数式を用いた文学論。 かつて夏目漱石は、文学は「F+f」であると説いた。あらゆる文学作品は、…

【書評】『新・生産性立国論』 デービッド・アトキンソン

「生産性を向上させることによって、日本の労働者は豊かになり、ワーキングプアは消え、貧困に窮している子どもたちが救われ、日本社会全体が幸せになる」。そう語る筆者による、生産性の意味と、生産性向上のための処方箋。 人口減少、経済の低迷、上がらな…

【書評】『大唐帝国』 宮崎市定

古代と近世とを結ぶ「谷間の時代」である中世。その時代に東アジアの政治と文化の中心であった唐王朝の歴史を通じて、中世という時代を語る一冊。 古代の終焉とはどのような状態を指すのか、後漢で荘園が流行った理由、地方政権が滅亡を免れる方法、関羽と張…

【書評】『明治維新とは何だったのか』 半藤一利、出口治明

近現代史の泰斗である半藤一利と、当代最高の教養人である出口治明。二人の知の巨人による、幕末から明治にかけてをテーマにした歴史対談。 アヘン戦争が幕府に与えた衝撃、若き俊英の阿部正弘が失敗した理由、わびさびが江戸時代に発展した理由、幕末とソ連…

【書評】『「新自由主義」の妖怪』 稲葉振一郎

「我々はマルクス主義に匹敵するような体系的イデオロギーとして「新自由主義」なるものがあると考えるべきではない」。そう語る筆者による、社会哲学者の目から見た新自由主義の正体。 「新自由主義」と呼ばれる一連の思想は、それ自体が大きな思想のくくり…

【書評】『世界のなかで自分の役割を見つけること――最高のアートを描くための仕事の流儀』 小松 美羽

「誰もが役割を持っていて、私はたまたま、それに早く気付くことができた。ただそれだけだ」。国際的に活躍する画家であり、独自の死生観を表現し続ける現代アーティストである筆者。その迸る情熱をぶつけた仕事論。 幼少期より培われた死生観、20歳で制作し…

【書評】『ヒトラー(下)』 イアン・カーショー

ドイツ近代史研究の世界的権威である筆者による、ヒトラー研究の金字塔、完結編。 ユダヤ人迫害の数字による検証、フランス侵攻の舞台裏、軍備計画の不備、ヒトラー支配下の政治体制、などなど。これまであまり語られることのなかった、ヒトラー体制の研究に…